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SAURUS > エッセイ > 則弘祐 > いまふたたびザウルスの名のもとに
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ザウルス・スーパーバイザー
則 弘祐
ESSAY: Hirosuke Nori


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則 弘祐です。

ザウルスの倒産※1 では、皆さんの信頼を一方的に裏切る結果となってしまい、言い訳のしようがありません。この責任はただ私ひとりにあります。身から出たサビとは申せ、心よりお詫びいたします。

思い起こせば今から40年前。神奈川県のダム湖での、たった一匹のバスとの出会いがボクの人生を変えました。
日本が戦争で負けた直後に生まれた僕にとって、アメリカという国は、自分の親類を殺された敵でした。と同時に、アメリカ人のかっこよさは憧れの対象でもあったのです。あのダム湖で会ったルアーマンがもしアメリカ人でなかったら……さらにその魚が、アメリカの国民的な魚、バスでなかったとしたら……それからの僕の人生は変わっていなかったかもしれません。
そのアメリカのルアーマンたちと親交が深まるにつれ、当時の日本の釣具の質の悪さには身を震わせるばかりでした。リール、ロッド、そしてルアー。それらはみんな輸出用で、まぎれもなくニセモノ、イミテーションでした。アメリカ人たちからそのことを口にされるたびに、敗戦国の一少年であった僕の卑屈な心はますます落ち込むばかりでした。いつか日本人の手で日本オリジナルのルアーを創る。その思いが日ごとに強くなっていきました。
ひとのマネはしない。それがバルサ50ルアーの原点で、その想いは40年経っても変わってません。


少年の僕は、アメリカ人のルアーマンたちから、たくさんのことを教わりました。
なかでもいちばん大きな収穫は「釣りは、アウトドアスポーツの中心ではあるけれど、あくまでもアウトドアの遊びの中のファクターのひとつである」ということです。たとえば、釣りをするために行くとしても、そこにキャンプというプロセスを加える。そうすると、料理をしたり、一日中水辺で過ごす濃密な時間がそこにはあるわけです。
あのルアーマンたちは、釣りや魚よりも、自然そのものが好きだったのではなかったか、そんなことが思い浮かぶのです。

  どうして僕達は釣りをするのだろうか?

  なぜ釣りが好きなのだろうか?

ザウルスが倒れて2年間、僕は実家の部屋でただ逼塞(ひっそく)していました。それでも、もう釣りをしたくない、なんてことは一度も考えませんでした。ただ、そうなってしまった自分を責めました。取り返しのできないことをしてしまった自分を毎日責め立てたのです。夜も寝られず食事も喉を通らず、 15Kg痩せました。
遊びとしてやっていた釣りを、仕事にする。それは自分の逃げ場がなくなることを意味していました。自分にうそはつけないのです。言い訳はできないのです。
しかし、ザウルスの種火を消したくもなかったのです。自分から釣りを取ったら何が残るのか。自分の中で、自分と自分が対立していました。

  なぜ僕達は釣りをするのだろうか?

  どうしてこんなに釣りに夢中になるのだろうか?

僕は完全なもの、絶対的なことを信じません。
僕は無宗教だから、宗教を持っている人とは違います。
でも、なぜ釣りが好きなのか?という問いに対しては、完全なものや絶対的なことの中に、その答えがあるような気がするのです。
レオナルド=ダ=ヴィンチではないけれど、自然は、その存在そのものが完全であり絶対的だと思うのです。海も、山も、そして川や湖も。だから登山家たちは山に登るし、水辺が好きな僕達は釣りをするのです。そのことで自然の奥深くに入っていけるような気がして、気持ちが満たされる。充実する。完全なものだからこそ僕達は憧れ、感動するのです。そうではないでしょうか。

僕は、逼塞していた2年間、いつも緑の水辺を思い浮かべ、そのたびに救われていました。
僕は、生きている限り、釣りをやめることはないでしょう。そしてまた、釣り具も作り続けるでしょう。だからこそ、いまふたたびザウルスの名のもとに、友人たちの力を借りて、新たな一歩をしるすことにしました。


(2005年)

則 弘祐



※1 ザウルス:則 弘祐氏が社長をしていた(株)スポーツザウルスの倒産。バルサ50をはじめとする、バス、トラウトフィッシング用のルアーを中心とした釣り用品の製造・販売を手掛けていた。1990年1月設立、 2003年末倒産。(参考:現在のザウルス製品を製造するのはザウルストレイン(有)。)




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