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SAURUS > エッセイ > 田中秀人 > 2005年 鮭川釣行 (1)
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Tokyo Rod & Gun Club
田中 秀人
ESSAY: Top Notch


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2005年の五月末、最上川を目指した。日常を置き去りにして、ただサクラマスに出会いたい一心で。
今回の旅はサクラマス釣行。最上川をやって、その後、秋田の解禁に向かうという段取り。

状況は? 釣果は?

アンテナをお願いしているプロショップ・クリークの遠藤さんから「ヒデちゃんだめよ。水無くってさ。雪代引いて渇水よ……。お客さんも仲間も、誰も釣ってないよ。水温も高くてさ、止めた方がいいんじゃないの?」
どうも具合が悪そうだ。川はあまり良くない状況のようだが、友も待っていてくれる。遠藤さんの特製ラム焼き喰って、相棒の赤ワインが楽しい前夜祭を支える。これまた旅の楽しみの一つだと思う。



こうした梅雨前後の気候にはフランス ロワール地方の「シノン」という村の赤ワインが良い。このワインはフランス本国でも初夏の雨の多い日に好んで飲まれるという。
しかしシノンと言うのは全く不思議なワインだ。きかん坊と言うか荒っけずりと言うか……。
上品なワインで無いことは確かだ。でもその上品でないところが、また魅力なんだよね。
「シノン」CHINON――名前もスマートで美しい。ブドウ品種はボルドーでメジャーなカベルネフランをなんと100%使っている。ボルドーでメジャーって言ったって、100%カベルネフランと言うのは皆無。
あの有名なサンテミリオンのCH.シュバルブランでさえ、カベルネフランが 50%まで(この偉大なワインがボルドーで最も使用パーセントが高い)。有名なカベルネソービニオンやメルロを50%以上ブレンドするシャトーは多いが、この品種がそこまで使われないのは独特の癖があるからでは無いかと感じてしまう。ブレンドのスパイスには良いが100パーセントはちょっと……。ワインの造り手はそんな訳で、このブドウをブレンドしているのだと思う。


一風変わった、この個性と風味が実はリバーサイドキャンプにぴったりとはまってしまうのである。
キャンプの食材にもピッタリ。ラムも良い、ドライなソーセージやベーコン、もちろんピクルスなんかも欲しいな。このワインを美味しく飲むためのキモとして夏を控えたこの時期はシノンを少しだけ冷やしてやると良い。14度位が良いかな。フルボディーの赤は20度位が良いが、この個性的なミディアムボディーのワインは少しおとなしくしてもらう位がちょうど良い。


シノンと共に東京から8時間あまりのドライブを楽しみ最上川の支流、鮭川を目指すこととする。
キャンプサイトに着くと、早速、水温計を鮭川の流れに当ててみる……水温14度! 思わずいやらしく笑みが出る。シノン数本をランディングネットに詰め、鮭川の水辺に浸す。


ゆっくりと沈む夕日。今日はもう釣りは出来ない。宴の準備と楽しい時間が我々を包んでくれるのを待つだけだ。
煙を上げるラムのロースト。
仲間達の笑い声は徐々に大きくなり、シノンとこの地の空気感がパーフェクトにリバーサイドを支配する。ふと星に目をやると、もう明日のサクラマスのことが頭をよぎる。こんな瞬間が最高に幸せだ。


「釣れても、釣れなくてもベストを尽くそう。」なんて、気分の良い時はそんな事を言ってられるんだよね。首筋にシノンを数滴塗って床に入る。そうしておくと明日の目覚めもシノンの香りで迎えることが出来る。明日の川辺を思いながら……。


田中 秀人






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