「アマゴ」原種は、本州 伊豆半島以西~四国の太平洋に流れ込む河川、そして瀬戸内海に流れ込む河川にのみ生息する。
日本のネイティブ トラウトの中でも限られた地域に生息する、貴重な鱒族である。
神奈川西部~中部~四国~瀬戸内…
温暖どころが、最近は亜熱帯を思わせるような気候に変動しつつある地方で、高水温と河川改修も相まって、年々その生息環境は脅かされている。
アマゴ(雨子)特に 雨の後によく釣れるからか、その名が生態の一面を物語る。
アマゴはヤマメに似た容姿に加え、独特の朱点をパーマークの辺り(主に側線近辺より上から背中にかけて朱点が多い)にちりばめ、その可憐さと美しさのあまり「川の宝石」と称される。ましてや純血のネイティブとなるとその色濃い美しさは格別で、アングラーの憧れる頂のひとつと言えるだろう。
ここで、ヤマメとアマゴについてその種を比較してみよう。
ヤマメとアマゴの違いは朱点の有無と生息域だけと思われがちだが、その生態と生活史には大きな違いがある。
ヤマメは海に降りるとサクラマスとなり、河川に戻るときに、超大型は70cmを超える。
アマゴは海に降りるとサツキマスとなり、河川に戻るときに、50cmを超えたら超大型だ。サツキマスの多くは30センチ台、40cm以上は立派なサイズだと思う。
昔話では60cmを超えるサツキマスも長良川で捕獲されていたようだが、僕の自己記録でも48cmがマックス。50cmを超えるサツキマスに出会ったことは無い。
結論から言うと、アマゴ=サツキマスはヤマメ=サクラマスほどは大きくならない。
こんな仮説もある。「岐阜県に生息するサツキマスの生活史を考えた時、長良川、木曽川、揖斐川など大河の流れ着く先は伊勢湾だ。その沖には黒潮が流れる。
伊勢湾の水温、黒潮の水温はトラウトの生息水温としては限界に近いくらい高く、海に出たアマゴは、長い回遊をあきらめ、ほとんど数か月~半年ほどで河川に戻ってしまう。だから1年以上回遊して巨大化するサクラマスより海洋生活が短くてサイズが小ぶりだ。」と言うもの。
しかし、僕はそうは思わない。
例えば日本海に注ぐ北陸の大河、九頭竜川と神通川。このサクラマスのメッカにもサツキマスが遡上する。(これは人為的なアマゴの放流によって生息しているので、本来はここにはいない種である。)
この両河川において、サクラマスが60cmを超える魚体に大きく育ち遡上するのに対し、サツキマスはやはり40cm前後。僕の北陸でのレコードも45cm。
さらに、サクラマスの遡上時期が年末から4月中旬のピーク時まで(この後も遡上は続くが桜の咲く時期からが遡上のピーク)なのに対し、日本海側に生息するサツキマスの遡上は5月ゴールデンウイークごろにピークを迎える。
これは太平洋側の本来 サツキマスが遡上する大河の時期と大差はない。
水温の低い日本海、サクラが遠洋に回遊する日本海でもサツキマスの行動パターンは変わらない。
この魚種の体内時計にはサツキの咲くころ、5月に河川遡上の時期がセットされている。
この事実を考えると、「伊勢湾 黒潮、高水温=サツキマス小型説」は成り立たない気がする。
アマゴ=サツキマスとヤマメ=サクラマスは近縁種だが別種なのだ。
僕は学者ではないので釣り師の現場からの実体験として述べているのだが、魚類学者曰く、学術的にもDNAにはっきりと違いがあり、両種は明確に別種とされている。
湖沼型の陸封サツキマスとサクラマスの比較でも、その外見だけでなく生態的にも別種で
あると言うヒントを与えてくれる。
飛騨のリザーバー 御母衣湖。この湖にはアマゴ=湖沼型サツキとヤマメ=湖沼型サクラの両種が混成するが、やはりそのサイズはサクラ60cmが超大型に対しサツキは超大型で50cm弱とそのサイズに明確なアベレージの違いがある。
秋の遡上時期も2週間から1か月ずれがある。
同じ一つの湖でも明らかに生活のパターンと生態に違いを見せるのだ。
こうした事実を数十年、毎年変わらずクロックワークのように繰り返されるその生態を眺め続けてくると、アマゴとヤマメが別の種であるということは外観だけでなく、生活史から実感するところだ。
飛騨にも人為的な放流により、アマゴとヤマメが混成するエリアが多々ある。
これは、僕が幼少のころから釣りをしたり、川に潜って遊んだりした実体験からの自論だが、混成するエリアでも両者はちょっとした生態の違いを見せている。
例えば一つのトロ瀬の中に、アマゴとヤマメが混泳しているケース。
同じくらいのサイズ、25cmのアマゴとヤマメがフィーダーレーンの先頭を争っている。
この場合ほぼ100%アマゴが争いに勝って先頭の良い位置を抑えている。
ウグイや自分よりややサイズの大きい尺岩魚にもアマゴはヤマメ以上に果敢にアタックして追い払い、自分の縄張りを守ろうとする。
どうもヤマメよりアマゴの方が好戦的で性格的にきつくて、敵味方にかかわらず縄張り争いに関して意地悪な気がする。
プラッギングに関しても、アマゴの方がより攻撃的なアタックを見せて、そのファイトの抵抗も同サイズならば、若干だがアマゴの方が激しいような気がする。
これも、きつい性格で意地悪な威嚇行動が関係しているのだろうか。
次にお話しておかなければいけないのは、生活エリアのこと。
「アマゴ、ヤマメ=陸封型」、「サツキ、サクラ=海降型」と簡単に2つに仕分けできないところが、またこのターゲットの奥深さと面白さだ。
海降回遊型 河川回帰「サツキ・サクラ」
河口辺りまで、又は海に降りてすぐ戻ってくる「ジャックや戻り」(小型のサツキ・サクラ、又は戻りと呼ばれる、本流下流域型。)
本流で過ごして、夏以降に遡上を始める「本流銀化」
ダム湖、リザーバー、湖を海に見立てて生活する「陸封型サツキ・サクラ」
そして今回スポットを当てたいタイプがある。
本流からの遡上もなく、リザーバーからの遡上もない、一生渓流で生活するタイプの「本アマゴ・本ヤマメ」がそれだ。
このタイプのアマゴは、深い体色に包まれて生涯銀化することなく、超大型になってもパーマークを身にまとったまま成熟することが特徴だ。
日本全土においてアマゴ自体の生息域が限られ、本流差しも陸封サツキの遡上もない渓流エリアで、さらに生涯銀化なしのパーマークを尺上まで残すネイティブの本アマゴとなると、これはもう奇跡のような孤高の存在だ。
宝石を超えた宝玉。だからこそ、あえて究極の憧れを込めて「本アマゴ」と呼びたい。
ヤマメでも同じようなケースで、遮断された特別な渓流で完全ネイティブの本ヤマメが生息する小さな流れがあると思う。
こうした色濃い本ヤマメは、もし40cmアップなどと言う超大型に出会えたら、これはもう究極の極みと言えるだろう。こうした憧れの40cmオーバー本ヤマメに出会うことを目標としているアングラーも多いと思う。
こと「本アマゴ」になるとそのハードルは生息域の狭さから、さらに奇跡的なターゲットとなる。長々と書き綴ってきたが、アマゴはヤマメほど大型にならないという理由で、
「35cmオーバーの本アマゴ」は僕の基準において「40cmオーバーの本ヤマメ」と同格に値する。
いずれにしても渓流を愛するアングラーにとって、究極のビッグトラウト、孤高の憧れの的であることは間違いない。
この憧れの「尺上 本アマゴ」に出会うためにはいくつかの法則がある。
ザウルス ケーススタディー~フィールドトライアル 「夏の尺ヤマメ・尺アマゴ 飛騨高山編」でも紹介したヒントだが、産卵を終えて生涯を終える本アマゴの超大型を狙うには、マックスに成長する禁漁間近の8月終盤から9月が高確立となる。
過去の経験からもこの渓流の本アマゴの尺上は、ほとんどこの時期に集中している。
次に行動の本能を読むことが必要になる。
盛期から夏にかけて、瀬の中に突っ込んで盛んに捕食して成長し栄養を蓄えた本アマゴたちは、産卵を意識し始めるとその遡上の前に一度大きな淵に降りて待機する。
8月終盤から超大型のアマゴをたびたび大淵で目撃することができる。
橋の上からバードウオッチング用のNIKON社製、防水の超高性能双眼鏡で上流の淵をのぞくと、その季節の変化を目の当たりにできる。
ヤマメも産卵遡上の前に一度淵で待機するが、この待機に入る行動時期が飛騨においてはアマゴの方が集中してこの時期に集まっている気がする。
ヤマメは少しだらだらと夏から10月にかけてこの行動を起こす気がする。
この淵に待機した大アマゴ。
これが恐るべき超高警戒心でリミットラインどころか、その淵の下流の縁にも立てないくらい接近が不可能に近いのだ。
以前実験した事が有る。
僕が橋の上でその巨大本アマゴを見つけて、友人にそっとアプローチさせる。
釣りと言うよりも歩腹前進でとにかくこっそりどこまで近づけるか…。
橋の上から双眼鏡で見つめる…
物音を最大限消し去ってそっとストーキングで下流から淵に近づく友人。
結果は無残にも敗北…
近づくどころか、その淵の一番下の縁に届く数メートル下流で、その大アマゴはあざ笑うかのようにゆっくりと淵の深く底へと消えて行った。
アマゴ。「雨子」と称されるように、その名にヒントがある。
この恐るべき警戒心の特大本アマゴに触れるチャンスが有るのはその名の通り「雨後」(ママゴ)に訪れるのだ。
秋雨前線、台風…
こうした大雨の後にチャンスが訪れる。
渇水から平水ではほとんど可能性はゼロに近い。
平水時には20cm~23cm、この支流にてアベレージサイズが数釣りできる。
しかし、尺上の本アマゴとなると、どうしても自然の力によるプラスαが必要になる。
だからこそ、天と睨めっこで、ひたすら増水後のチャンスを待って、
この特大本アマゴを狙うのである。
・飛騨川水系支流:渓流の宝玉 尺上 本アマゴが舞う
平成23年9月6日 その増水のチャンスが訪れた。
9月2日から4日に飛騨の端をかすめて行った台風は大増水と共にあの支流をリセットしてくれたのだ。
「秋神川・益田川」 飛騨川水系、下流域で木曽川と合流して伊勢湾へと注ぎ込む大河の最上流エリア。飛騨地方 分水嶺 太平洋。太古から天然のアマゴ、サツキマスの生息エリアである
その支流群の中に、ダムからのサツキマスの遡上も、本流からの遡上もない、居着き天然本アマゴが狙える支流が存在する。
この流れは、普段の水量が少なく、大増水で他の河川が全滅状態のとき、最高のコンディションを迎えるという特殊なエリアなのだ。
釣り方は「ケーススタディー+フィールドトライアル」でふれた、完全アップストリームの釣り。相棒は56UL ベイトキャスターとスパシン。
この水量と、抵抗であれば、5cmと6cmを状況で使い分ける。
具体的なHOW TOは重複するので、ケーススタディー+フィールドトライアル
を参考にしていただきたい。
今回の釣行も基本的にはケーススタディー+フィールドトライアルをベースに、その上に当日の状況に合わせた引き出しをいくつか使って釣りを組み立てたと解釈していただきたい。
56ULベイトキャスターのスペックでは、スパシン6cmの9gはオーバースペックと思われるかもしれないが、それは太い流れにてダウンで使ったらの話。
ULであってもスピニング用ブランクよりシャフトは強い。
6cmのスパシンも鞭のようにしなって、ライナーでアップストリームにロングキャストが可能だ。そして増水の流れをトゥイッチしながら水勢になじんでゆく。
軽く尺を超える渓流のビッグトラウトがヒットしても、ひるむことなく一気にネットインするパワーも持ち合わせている。
単なるやわなベナンベナンのウルトラライト ベイトロッドでは無いのだ。
あくまでも超軽量フローティング小型ミノーからスパシンまで、渓流で必要とするルアー群全てを自由にあやつりコントロールして、不意の大物にも負けないポテンシャルを秘める「究極の渓流スペシャル ベイトキャスター」なんだ。だから、文句なくスパシン6cmまでバリエーションに加えてガンガン攻める。
今日の流れは平水より50cm水位が高く、水はやや白っぽい笹濁り。
一件きつそうに見えるが、水位、水色とも最高の条件が整った。
この渓流で増水の最高条件と言うことは、飛騨地域のほとんどの流れは大増水で潰れたままと言うことになる。
そして今、生唾ゴックンのこの支流に立った。
渓流に降りるとすぐに「アマガエル」を発見。
最近、このアマガエル、よく釣りについてくるんだよ。
今日はカメラを向けることなくそっと一礼して、川面に向かう。
このごろ、このアマガエルを見つけると決まってその日はよく釣れるんだ。
「ひょっとして今日も…」
僕にとって守り神のような「ラッキー チャーム」になっている。
このアマガエルの正体…いったい誰だと思います…。
いよいよフィッシング スタート!
台風一過の澄みきった空気に、ドピーカンの抜けるような秋空。
深呼吸すると全身に鋭気がみなぎってくる。
普段、川原を歩き葦原を漕いで流れを左右に行き来して遡上してゆくが、今日の水量はそうはいかない。
右岸に入ったら右岸で通す。川は増水で渡れない。
キャスタビリティーを生かすために右岸から入渓してなるべく長い距離、右岸だけで通せる区間を選んで入渓する。左岸に入るとキャストのほとんどがバックアンダーキャストになり制約がより多くなる。だから右岸側に入る。
とはいっても、葦原は水没して川原は消えている。
藪漕ぎで進むというより、川岸のネコヤナギやイバラの林をもぐりながら遡上してゆく。
かなり根性と体力がいる。
さらに、3階建てのビル位はありそうな巨大な岩山を幾つもクライミングし、へつって川を溯ってゆく。
半端な気合いじゃ挫折する。
相当きついし、ここまで普段はやらない。
でも、狙いは究極の尺上 本アマゴなのだ。
ウエーダーに穴が開こうが、顔が切り傷だらけになろうが、目の前に有る今日のこの流れが、究極の宝玉に近づく又とない最大のチャンスであるとわかっている。
だからこの難局も全く苦ではないのだ。
「これを越えたら釣れる!」そう信じて、気合を入れて岸壁に挑むのだ。
この支流は岩盤と、巨岩と大淵、瀬、ぶっつけ…荒々しく渓相が迫る。
入渓地点からゴルジェが続く。
淵はかなり大きな淵が100m置きほどで次々に現れる。
1km進めば大淵が10個くらい存在する。
増水して瀬もぶっつけもすべて潰れているが、狙いは淵に降りて待機している特大本アマゴだ。この増水時でなければ淵の尺上 本アマゴはなかなか反応してくれない。
そのスイッチを入れるのに十分な、まさに最高の水況が目前に広がった。
狙いはズバリ淵だ。
入渓して一つ目の淵の第一投で早速チビ アマゴがヒットする。
キラキラとフラッシングしながら引き寄せてくる。
すると、そのすぐ後ろを寄り添うようにもう一匹チビ アマゴがじゃれつくように絡んで
ついてくる。
エサを横取りしようと突っ込んできたのか?はたまた助けに来たのか?
15cmのチビ アマゴを手に納めても、もう一匹が足元でうろうろしている。
「なんという活性だ!!アマゴたちはやる気満々だ!」
体が熱く燃え上がってくる。
高ぶる気持ちを抑える…。
淵の頭にキャストして流心脇を小刻みにトゥイッチしながら、ライスラックをとって誘ってくると、次々に本アマゴたちがヒットしてくる。
このアクションにスレて釣れなくなったら、ストロークを少しソフトに優しく切り替えるとまたヒット。
チビからアベレージ 20~23cmが面白いようにヒットする。
「ここまで活性が高いのも久しぶりだ!!」
絶好の流れに立っている。
岩山を越え進んでゆく。
すでに汗だくだが、水分は2Lたっぷりストックしてこの遡上に備えている。
ゴルジェの地帯に入るとさらに、条件が上がってゆく。
いつもは数釣りの流れだが、今日は25cm~泣き弱クラス良型のアマゴもポンポン混ざって釣れてくる。数だけでなくサイズも揃いはじめた。まさに最高のコンディションに遭遇している。
ストロークを色々変えながら、数もサイズも伸ばしてゆく。
辛い遡上。
この岩山を超えると又次の大淵が…
過酷なへつりも躊躇なく進んでゆける。釣れる確信がますます高まっているからだ。
ドピーカンの空に高い筋状の秋の雲がたなびく。
時間は正午を超えた。
真っ昼間にもかかわらず、釣れるペースは全く変わらない。
風は渇きやさしく、爽やかにハイランド ドライカントリーを思わせる。
汗は流れるがゴルジェの中は爽快だ。
ストロークを色々ためしながら、
思い切って速引きぎみにジャーク+ストップの「アップストリーム ストップ&ゴー」をロングストロークで引いてみる。
すると、猛烈なスピードで深みから巨大な影が襲った!!
ズドッツ!!ズズズズズッツ…!!グリングリンうねりながら塊となってもがいている。
「で デカいぞ!!!」
明らかにサイズが違う。サイズが違うどころか、この渓流には似合わないほどデカイ。
淵の中を左右にもがき走り、底へ突進しようとする。
岩盤のスリットを目指すのか?
そうはいかない…。
56UL ベイトキャスターを目いっぱい絞ってテンションをかけて一気に引き寄せ、
一発でネットイン!!最後はベイトキャスターのバットパワーが強烈にサポートしてくれた。
この流れでは、モンスタークラスの36cm 雄の鼻曲がり 特大本アマゴ!!
全鰭ピンピンの完璧な魚体。
見事なオリーブバックに白っぽい濁りに同化した、限りなく濃く深い体色。
この流れに産まれ、幼魚時代から居着きでここまで大きく育った、究極のビッグトラウト。
この渓流は 本流差しはなく、リザーバーからの遡上もない。
全くの居着きの 本アマゴ。
美しく明るい黄色の胸鰭が渓流暮らしの証。
胸鰭は海に下ると黒くなる。本流タイプや、湖沼型のサツキも胸鰭がやや黒っぽくなる。
この色で、ある程度生活史が推測できる。
本アマゴは、生涯銀化度0パーセント!!
宝石のような朱点をまとった完璧なパーマーク ネイティブ!!
渓流の宝玉(THE ORB)だ。
サツキでもない、本流でもない、戻りでもない、湖沼型サツキでもない…
完全に渓流で幽閉され、生涯のすべてを過ごす本アマゴだ!!
だからこそ、この36cmには孤高の価値がある。
「アマゴ、種としての生活史考」の繰り返しになるが、アマゴはヤマメより大きくならないので、この本アマゴの36cmは 渓流居着き 天然本ヤマメの40cmオーバーと同格に値する。
完璧な自然の芸術。
はかなく愛しく美しい、天然美の極みが今ここに納まったのだ。
震えるほど興奮しない訳がない。
ネットインしたばかりの、特大本アマゴにカメラを向けると、
期せずして空の青と筋状の天高く駆け昇る雲がバックスクリーンのように
水面に映り、パーフェクトな魚体をさらに飾ってくれた。
この支流において自己タイ記録 36cm!!完全無欠の本アマゴ。
長年やっていても、そう頻繁にお目に掛かれるサイズではない。
満足感と達成感と、虚脱感に一気に襲われた…。
とにかく写真を撮った。
いつもより多くシャッターを切った。
川原は増水で消え、岸部はネコヤナギで撮影スペースは大きな石の周辺にあるわずかなスポット。
左手にアブ アンバサダー…。
濡らしたくないのでかなり撮影に苦労する。
「ちゃんと写真を撮ってください!」とザウルストレインの声が聞こえる。
ついついもっと釣りたくて、すぐに次に行きたがる悪い癖。
いつまでたっても、おなかが一杯にならない飢えたガキのまま…未だ精神的な成長なし。
しっかり撮影を終え(ちゃんと撮れているかな???)
気持ちをリセットして、さらに釣り上がる。
細かい連続トゥイッチやソフトなドリフト気味なトゥイッチを組み合わせてゆくと、
もう止まらないくらい釣れてくる。
しかし、このアクションで釣れてくるのは 良型の25cm以上も混じるが、尺が出ない。
先ほどの36cmをヒットさせたストロークを思い出し、再現する。
カリカリ ビュッツ カリカリ ビュッツ!!
速引きにロングストロークジャーク(ロングと言っても56レングスだから60cmくらいのストロークになる)でストップ&ゴー&アップストリーム!
ビュッツ…カリッツ ストップから次のジャーク…ビュッツ!ズドッツ!!!
ジャークした瞬間にスパシンをまた大きな影が襲った。
グネングネン ローリングしながらもがいている。
「でかいぞ!!!」
これもまた尺上だと、すぐにわかった。
ロッドパワーを生かして これもまた強引気味に一発でネットイン。
今度はメスの31cm! これまた美しい、完璧な尺上 本アマゴ!
どうやらデカイ奴にはこのストロークが本日のはまりパターンのようだ。
デカイやつらのスイッチを入れるパターンが見えてきた。
同じアクションにこだわると、サイズアップ出来ないという、典型的なケースだ。
数釣りできていても狙いのサイズが出ないならば、あえて違うアクションで攻める。
こうした チェンジ オブ ペースの引き出しも必要だという実証になった。
その後も良型を含む、美しいアマゴたちが連続でヒットしてくる。
明らかに尺上のバラシもあり、真っ赤になった婚姻色の尺上アマゴも足元までチェイスした。
時刻はもう午後3時を過ぎようとしている。
その時古い釣友で後輩、「飛騨のルアービルダー Y君」から僕の携帯に電話が入る。
「ヒデさん。お休みのところすみません。この間お願いしていたカーディナル3のスプールの…」
仕事中の彼から、タックルの事で所用の電話があった。
これが面白い後輩で、いじればいじるほど、みるみる心が壊れて釣りがめちゃくちゃになってゆくという天然な野郎なのだ。
この男の特徴として川でよくこける。しょっちゅうこける。
一日一回は必ず川でこける。
あまりにもこけるので開き直って夏場は、はなから濡れてもいいように
サプレックスパンツとウエーディングシューズだけで釣りをしているらしい。
(本当は暑さ対策です。僕もこの夏から導入しました。猛暑の釣りに快適です。)
それでもやっぱり毎回こけている。しまいには「岩盤はへつらないで高巻きしないで、淵を泳いで釣り上がります。」なんて言っている。
こけてずぶ濡れになって、居直っているだけじゃないの?
(本当に泳いで淵を渡って、釣り上がっているようです。僕はベイトリールが水没するしベストが濡れるのでそんなことは嫌です。)
さらに思考回路が「釣りバカ日誌の浜ちゃん」みたいにジェットコースターのごとく見事に浮き沈みして、心底いじり甲斐のある後輩なのだ。
友人に釣果を自慢するというような浅はかな言動では無く、後輩をいじってその心を乱して遊んでやろうという悪戯な気分で、Y君を挑発してからかってやった。
僕はニヤニヤ笑いながら、彼の「ガラスの少年」のように繊細でもろい心を刺激し、相反して似ても似つかぬ、やたらゴツイ体を持った野郎をティーズする。
「なに?今、釣りしてないの?今日は最高よ!36cmのオス一本に31cmのメス一本、明らかに尺上バラシ1に真っ赤な婚姻色 尺上が足元までチェイスに…、数は30匹以上に25cm以上の良型も10匹以上混じって!もうバコバコよ!」
野郎にいきなり、ハイパー トゥイッチンを叩き込む…
「うう うわーッツ…ままじっすか…。病気が出ちゃう…。」
彼の病気とは、仕事をおっぽってでも釣りに行きたくなるという、人生を駄目にしかねない「釣熱病」を指す。
「今すぐおいでよ!車で20分じゃない!まだバッコボコに釣れ続けてるよ!!」
バコバコならぬバッコボコと言ってやった。
自制心を攻撃してグラつかせる作戦!反射喰いを狙った、連続のアクションだ!
今日の彼は仕事の追い込みで身動きできないという事を知った上で、面白がって思いっきり煽って、なぶってやった。
悪い兄貴分だとはわかっているが、こういう風に弟分をなぶるのは楽しくてやめられない。
誰にでもするわけじゃないです。気心が知れた弟だからです。
声が震え…心が崩れ…鼻水が垂れ、顔が紅潮する後輩Yの顔が携帯電話越しに浮かんでくる。
もろくも精神的に崩れ去る彼のナイーブな心が、今すぐ僕の傍らまで飛んできた。
ひょっとしたら、オモラシしているかもしれない。
次の日、仕事にきりを付けて出かけたのか、おっぽって出かけたのかどうか…?
詳しい奴さんの行動を僕は知らないが…何があっても、僕は彼の行動の責任をとるつもりはない。
自己責任…。
朝一から終日渓流を駆け回っていた彼の釣行日誌を、翌々日「Y君のビジネスブログ」で見つけた。
どうやら翌日、彼も良い数釣りをしたみたいだ。(日の出から日没まで、猛烈に4河川ほどハシゴしたらしい…)
仕事の邪魔!?…情報を流して、釣れたのだから感謝してよY君!
悪い兄貴です!フッツフッツフ…。
さてさて、マイ ホームへ。
今宵この日の空気感にはスコットランド スペイサイドモルト 「クラガンモア」…
則さんお気に入りのシングルモルト ウイスキー。
疲れた体にスモーキーな香りが吸い込まれてゆく。
とあるザウルス フィッシングキャンプの夜、則さんが持ってきた「クラガンモア」を皆でいただいた。
暑くて脱水症状の中、僕は手持ちのクラブソーダで割り、氷をたっぷり入れたキンキンに冷やしたハイボールが飲みたくなった。
ついつい、杯が進む。
すかさずノリス チェック…
「ヒデ…炭酸で割らないで、ハーフ&ハーフの水割りが良いと思うよ…。」
口調は穏やかだが、視線はかなり冷やか…
あきらめて、もう一杯は水割りでいただいた。
ごめんなさい…。
でも今日の空気感はどうしてもハイボールなんです…
師匠の視線を感じつつ ハイボールでクラガンモアを楽しんだ。
こうして僕の、秋のベイトキャスター56UL ジャーニーは続くのだった…。
まだまだ 狙います!!
狙え!究極!秋のビッグトラウト!!
(TO BE CONTINUED)
スペックデータ
ロッド:
ザウルス ボロン ベイトキャスター 56UL-C
ルアー:
CDレックス スーパーシンキング5cm・6cm/C-チャートバックOB、ガンメタ 他
ライン:レグロン ワールドプレミアム 6Lb.
リール:アブ アンバサダー 2601C ウルトラライト チューニング
2011年9月
田中 秀人