伝統あるイギリスのオークション「サザビーズ」を含めた5つの会社で弦楽器のオークションが開催され、世界中から多くのディーラーやプレイヤーがロンドンに集まった。
延2,000本以上の楽器を見たが、私が購入した楽器は下記のたったの3本。
・Old violin Camillus Camilli 1735 ... £250,000
・Modern violin Giuseppe Pedrazzini 1920 ... £48,000
・Violin bow Francois Nicolas Voilin 1885 ... £15,000
「その時代の一流メーカーで、そのメーカーのスーパークラスで、状態のいい楽器」
そんな楽器がどんどん減ってきているため、クライアントの注文すべての楽器を買うことはできないのが現状だ。利益を優先して注文数の楽器を用意することは簡単なのだが、信頼関係で成り立っているこのビジネスに於いて妥協は許されない。
オールドイタリアンのビオラを探しているクライアントには、すでに3年以上も待ってもらっている。
こんなビジネスをしているためか、世界の投資マネーが株からモノへと移行していることは肌身で感じることができる。
ヨーロッパでは「世界の投資に明るいニュースがない中で弦楽器への投資のみが明るく、銀行やミュージアムなども弦楽器に投資を始めている」と、経済紙やテレビニュースなどが伝えた。
弦楽器の銘工「ストラディバリウス」は、10数年前100万ドルほどであったが、現在は300万ドルでも買えないほどに値上がりしている。
なぜ良い楽器の価格が上がるのか?
1つは、アンティーク品(バイオリン等の道具は使うと痛んで数が減っていく)は数が限られているため需要と供給のバランスで競いが発生し値を上げているからだ。つまり「良い」の定義はコンテンポラリ(現行品)よりも「良い」が最低条件になる。
2つ目は、物価の上昇。物価の上昇は利益を増やし、利益の上昇が給与を増やし、給与が増えるとお金が回り、景気が良くなる。いわゆるインフレだ。
しかしバブルの崩壊後、弱気になった日本の企業は割引競争ばかりをして、ここ10数年は物価が上がらず給与も上がっていない。さらに中国製品の普及で日本製品は追いやられ、メーカーなのに自分で作らずに中国で作らせたモノを横流しにするだけの企業や、中国製に少し手を加えただけで日本製と記載するほど堕落した企業も多く出てきているくらいだ。
個人レベルで考えた時は物価が安いほうが得をしている感があるのだが、国全体で考えると物価が上がったほうが景気はよくなる。だから、このことをよく理解している投資家は景気が悪くなっても良いものを安くしてまで手放さずにじっと待っている。そして景気のいいところが出てくるとマーケットは少しずつ動き出す。
つまり、アンティーク品に限らず、各ジャンルの上級品を扱う者は、景気の悪い時期であっても売り急がずに忍耐強く待って高く売ることで各マーケットの価格を安定させなければいけないのだ。
だからヨーロッパではあまり安売りをしないで、もっと他の付加価値による競争をしている。値引きなど誰にでもできるし、「良いモノは高くてあたりまえ」というプライドさえ感じる。
そして、あらゆる分野の世界情勢をしっかりつかんだ強者のみがプライスリーダーになっていくのだ。
弦楽器は世界のマーケットで動いているため日本の景気などには左右されず、その他のあらゆる要素とあいまってここ10数年で極端に価格があがっている。楽器に限らず「本当に良いモノ」はこれから未来も間違いなく価格があがっていくだろう。
そう考えると、我々が使っているフィッシングタックルも10年20年先、いかに大切なモノになっていくかを感じるはずだ。
しかし日本は本質を見ないで売り急ぐ人が多いため、ブームによる価格の変動が大きすぎる。
こんな時だからこそ「良いモノ」の本質を見る目をしっかりと養う時期にあるのかもしれない。そして、道具は使うからには確実に減っていく。だからこそ、こういった情勢の中で「本当に良いモノ」を作るメーカーが世界的にも必要なのだ。
世界の情勢をしっかりと見据えて、ブームや景気などに流されずに長いスパンで計画的に経営のできる体力のある会社、そして何よりも「本当に良いモノ」を作り続けるメーカーにザウルスが生まれ変わってくれることを、きっと多くのファンは期待しているだろう。
夢をくれたあの頃のように・・・
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