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トップノッチ
ESSAY: Top Notch


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ブラックバスの原産地「アメリカ」、ここは世界の中心都市「ニューヨーク」。
僕は幼い頃からアメリカがキライだった。


何か派手々しく乱暴で強引な自分勝手、というイメージを持っていたからだ。
現在は多くのアメリカ人ディーラーと仕事をしているが、実際に彼らはヨーロッパのディーラーと比べても、とてもプッシーで傲慢なところがある。正直、今でもあまりアメリカ人を好きになれない。しかし残念なことに、気がつけば僕の私生活の多くはそのアメリカ人のセンスに支配されていた。
ここに来るたびに「何もかもがデカイ」と感じる。

立ち並ぶ高層ビルや腰を入れて押し開ける重い扉、街中を爆音で走る巨艦のトラック、メロンサイズのハンバーガーに山盛りのフライドポテト。人もでかけりゃ態度も皆でかい。
悪漢のパワーとエネルギーに満ち溢れたこの街で、上には上があることを体で思い知らされた。


今回はクリスティーズのオークションでバイオリン以外にギターが多く出品されており、中でもロイ・ロジャースが使っていたマーチンのギターが注目された。
結果、落札価格は554,500ドル。日本円で約5500万円だった。このギターに関してはロジャースが使っていたというプレミアの価格ではあるが、それにしても古いギブソンやマーチンのギターがここ数年で非常に高くなった。

バイオリン同様にギターも演奏家が購入できない時代が来るのはそう遠くないかもしれない、とつくづく感じた。


仕事を終えてすぐにジャズのレコードショップへ向かった。アートペッパーやジョーパス、リーコニッツなどの名盤を買い、その後ヴィンテージサックスショップを7店ほどめぐるも探しているテナーは見つからず、さらにフィッシングショップで1900年代初期のヘドンのバサーを買い、5 Ave.でジーンズを買い、ドデカイステーキの後はJazz clubでJam sessionを明け方まで楽しんだ。

結局この日も僕はアメリカ一色となり、薄暗いカエリ路、溢れるほどの充実感を感じていた。
不思議と「ニューヨーク」に来るといつも気持ちが楽になる。僕の中に染み付いた日本的な遠慮、謙虚、謙遜、自制などから解き放たれ、心が自由になる感があるのだ。


小さな僕の中で大キライなアメリカがこぼれ落ちそうだった。





3日目、世界的な弓の鑑定家「ポールチャイルズ」に会うため、列車に乗り込んだ。行先はニューヨークから1時間ほど離れた田舎街、モントローズ。
窓の外には永遠と続く広大なハドソン川が流れていて、そのあまりの大きさから残念なことだが小さな日本で釣りをする事の限界を感じずにはいられなかった。駅に着き、ロータリーに1台の古いポルシェが停まっていた。もしや、と思った瞬間ドアが開き、中から190センチの大男が出てきた。 「ポールチャイルズ」だ。


ポルシェ独特のドアが閉まる音、乾いたエンジン音を背中に感じながら彼の自宅へと向かう。モントローズは少し軽井沢に似た別荘街のような街でそこらじゅうにミルポンドがあり、ブラックバスがどこにでもいるという。
自宅に着くと、そこには60年代のジャガーが絵に描いたように停まっていて、それに見とれている僕の隣で「何年乗ってもこのジャガーが1番だ」とポールが軽く言った。


彼は誰もが認める世界のトップディーラーであり、文字通り世界中を飛び回っているエキスパートだが、未だパソコンも使わなければ携帯電話も持っていない。
FAXを使い、手書きの文書だけでやり取りをしているのだ。鑑定書もすべて手書きのため、偽造されることがまずない。
アメリカ人とは思えないくらい丁寧に整理された過去の膨大な鑑定書データファイルの前で彼は「これが自分だ。」と言った。




そして奥の棚から豪華な弓ケースを取り出し、僕の前に開いて見せた。
40年間で集めた彼のスーパーコレクションだった。いずれも超一級品でめったにお目にかかれないものばかりだ。 動揺を隠しきれない僕は冗談ではあるが、「ポールが死んだらコレクションのすべてを僕が買う」と息子に伝えるように言った。すると彼も笑いながらこう返した

「OK、ベストプライス」

彼にはどんな時代になろうとも変わらない確固とした自分のスタイルがあり、今やそれは「ポールチャイルズ」という世界のブランドになっている。


ポールはこんな田舎町からローテクだけで世界のトップに上り詰めたのか・・・


脱帽だった。


アメリカはいつも何かを語りかけてくる。

最新のハイテクと流行ばかりが話題になるこの小さな日本で、僕はポールチャイルズのようになれるのだろうか?そしてザウルスはヘドンのようになれるのだろうか?


その後バルサ50を手に近くのミルポンドへ足を運んだがまったく集中できず、あっけなくアメリカ国旗の前にノーバイトの敗北に終わった。


もっともっと世界を知りたい。
そしてもっともっと世界に挑んでいきたい。


僕のキライな偉大なる大国へ・・・



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