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Tokyo Rod & Gun Club 山田 周治
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吉田幸二さんに関係する話をもうひとつ。
幸二氏は霞ヶ浦で、ごみ拾い運動を続けていらっしゃると同時に、湖岸一体の状況もきめ細かく観察し、どんな小さな変化も、見逃さずチェックしておられる。
そのチェックした報告の一つに、モーターボートによる葦原の後退、というのがあるのですね。
モーターボートの引き波が、湖岸の浅瀬の泥の中に網のように入り組んで這っている葦原の根を洗い出して、葦を浮き上がらせてしまう。浮き上がった脚は枯れる。葦原は後退する。というわけです。
僕も同じ現象を、亀山ダムがある小櫃川の河口で見ている。ここには東京湾で唯一自然の姿のまま残された貴重な干潟、盤洲干潟があるのだけれど、その後浜の葦原が、河口をちょっと遡ったところにあるマリーナに出入りするモーターボートの引き波で洗い出され、削られているのだ。
池や湖をちょっとでも観察したことがある方なら、きっとご存じだと思うのだけれど、岸辺の葦原の浅瀬はまさに小さな生き物達の、楽園なのですね。
なぜ葦原は楽園になるのか?
葦が密生していて、小さな生き物達を襲う大きな魚はなかなか入ってこない? 入ってきたとしても自由に動けないし、小魚や海老や水生昆虫達は、すぐ隠れ家に逃げ込める?
たしかにそれはある。
と、同時に。ここには水底まで太陽の光がたっぷり届く。水はすぐ温まる。しかも葦の根の働きのおかげで、水は浄化されているし、酸素はたっぷりある。植物性プランクトンも動物性プランクトンもいっぱいいる。水草も繁殖する。だからここには、水生昆虫も蜻蛉も海老も蛙も魚達も、卵を産む。小さな生き物達の楽園となる。
その楽園を、バス釣りのモーターボートの引き波が荒らしてしまう。
もちろんバサーには、そんな悪気はないのだ。ただ、効率よくポイントを移動してバスを釣るために、バスボートのエンジンはどんどん大きくなった。安定して速く走れるように、ボディもどんどん大きくなった。引き波もそれにつれてどんどん大きくなった。そんなボートが何十艘も岸辺の葦原のすぐ沖合いを、疾走して行く。
結果、葦の根は洗い出されて浮き上がる。葦原は次第に後退していかざるを得ない。小さな生き物達の楽園は、消滅していかざるを得ない。
繁殖と生活の場を失った、水生昆虫や海老や蛙や小魚達は、もはや消滅して行かざるを得ない。
大きなバスボートで大馬力のエンジンを全開にして、湖を疾走しながら釣り場を漁る。それもバスの釣り方の一つのスタイルなのだろう。
ただ、せめて岸辺に近づいたら、スピードを落として大きな引き波を立てないようにしようではないか。
山田 周治