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SAURUS > エッセイ > 山田周治 > 怠け者の観察者でも分る。干潟はとても敏感な環境なのだ
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Tokyo Rod & Gun Club
山田 周治
ESSAY: Shuji Yamada


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弁解の余地もないのだが、ずいぶん長いことご無沙汰をしてしまいました。



久しぶりに書くのに、バスの話ではないのはごめん、なのだけれど。環境の問題についてはお互い無関心ではいられないではないか。というわけで、今回は、東京湾に唯一残された自然干潟、小櫃川河口にある盤洲干潟の話。


以前にも話したことがあるかも知れないが、この干潟の自然を守ろうという会があって、僕もその末席をけがしている。年に数回の観察会に参加する程度の、とても勤勉とはいえない観察者なのだけれど、そんな僕にでも、干潟の敏感で繊細な反応は実感できるし、驚かずにはいられないのだ。
その一つが、砂の動きだ。

アクアラインはもちろんご存じだよね。この東京湾横断高速道路。海の部分全長14kmのうち9.6kmは海底トンネル、木更津側の4.4kmは海上に出て橋になっている。橋だから当然橋脚がある。橋脚は全部で42本。これが櫛の歯のように海に突き刺さっているわけだが、海面の下には橋脚を支える大きな土台がでんと踏ん張っている。

そして、橋の終わりの部分に、ご存じ《海ほたる》がある。幅100m、長さ650m。結構な大きさの人口島になっている。

湾口から上がってくる潮流は、房総半島が湾沿って流入し三浦半島側に流出する。今までならすべて湾奥まで行ってぐるっと湾奥を回るようにして出ていたのだが、なにしろアクアラインのところで1kmに近い壁ができてしまったのだから、その分の流れはここではね返される。するとどうなるか。

はね返された流れは、盤洲干潟地域の水位をあげる。同時に干潟の底の砂を掘り返す。素人の想像の域を超えないのだが、観察の実感ではそうとしか思えないのだ。

ショアラインの砂がどんどん削られて、葦の根がむき出しになり、葦原が次第に後退してきた。シオクグの群生が根腐れを起こして消えた。ハママツナの群生が消えた。

かと思うと、逆流した流れが運んだと思われる砂が堆積して、新しく砂浜が生まれた。そこにハママツナが小さな群生を作り始めた。


干潟になる岸辺の部分でそんな変化が表われているとすれば、その沖の浅瀬の部分にも変化が起きていないはずがない。おそらくは穏やかな潮の流れの恩恵で育っていた海藻類が、激しい流れで砂を運び去られるのと一緒に、消滅してしまっているのかもしれない。
穏やかな藻場がなくなれば、そのゆりかごに守られていた稚魚や小魚が、生活の場を失う。

当然生態系のバランスが崩れる。フードチェーンが崩れる。彼らが餌にしていた小さな生物達が急激に増殖する。それがさらに大きなオフバランスを生み出す。

もちろん推測の域を脱しないのだけれど、いま、盤洲干潟で(いや、もう富津海岸にまで広がり始めているという話もある)アサリを食い尽くして殺してしまう寄生生物ウミグモの異常発生も、もしかすると、こんな生態系のオフバランスが一因になっているのかもしれない。






山田 周治






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