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SAURUS > 釣行レポート > #13 メーターオーバーへのこだわり ~ 北海道イトウ
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土曜の朝6時半、携帯の音が鳴る。
電話を取ると興奮した声が聞こえる。北海道巨体のベイトキャスター金野さんからの電話だった。

「出たよ、メーターオーバー、102センチ、河合が獲ったよ!」
30年近い付き合いの私の親友、河合が獲った。
電話を代わると「遂に獲れました。やっと釣れました。」と河合の声。
思いつく限りの祝福の言葉を伝えて電話を切る。

くたくたに仕事に疲れて今日は少し寝坊するつもりだったが、興奮して頭が活性していく、来週末、またしても土日のみの釣行だが、私も道北へ向かう事になっている。
頭のなかのイメージはどんどん膨らんでいき、目標である130センチオーバーが目の前にいる錯覚に陥る。

「待っていろよ、俺がもっと凄いのを釣り上げてやる」

迎えた金曜日、東京をたつ。毎度のことながら雨である。
今回も同行してくれるのは金野氏、彼も今回の釣行に燃えている。

予報では明日の朝には雨が上がるとでている。このままあまり濁りが入りすぎなければ最高の条件のはずである。
札幌からはいつものように一睡もせず北へ走る。二人のテンションはMAXで、心の中では既にメーターオーバーを釣り上げている。半年以上ご無沙汰している北の川である。「待ちきれん!」金野氏をせかし早めの準備をする。

あと何分かすればイトウに会える。そう信じて疑わない私達だったが1時間ほどロッドを振っても何も起きない。
まずい。非常に嫌な予感がする。河川改修の影響でベイトの数も非常に少なくこの時期にしては水温が高い。水温に関しては気になることがある。毎年、春の水温上昇が早く、秋の水温低下も段々遅くなっていて私の好きな川の環境は年々、イトウにとって厳しくなっている気がする。
私の経験上イトウはニジマスと違い水温が低ければ低いほどファイトも強くなり、また活性も上がると考えているので今の状況は良いことではない。

金野氏は一心不乱にロッドを振っている。それはそうだ。先週、目の前でメーターオーバーを見せられたのだから誰だって燃えるに決まっている。
私も金野氏も過去にメーターオーバーはクリアしているのだが、そろそろもう一本欲しいところだ。もう釣っても良いくらいお互い苦労しているはずなのだが、なかなか女神は微笑まない。
今回のイトウ釣行には昨年までと違い重要な目的があった。無理を言って作ってもらった9フィートのベイトキャスター、「The Expedition」。
ヘビープラグをロングキャストするパワーとシャープなアクション。既存のトラウトロッドとは全く違うスペックのボロンロッドである。ターゲットは勿論、メーターオーバーのイトウ。中途半端な魚は対象にしていない、最強のトラウトロッド、しかもベイトである。とても商売的に売れるとは思えないこのロッドの開発に参加させてもらえるからには相応しい魚がどうしても欲しい。

皆さんがイトウという魚に思い描くのはどのような事だろうか。
私が初めてイトウに出会ったのは十数年程前、とある湖だった。50センチ程のイトウはまだ幼さが残っているものの当時の私にはとても神々しいものに映った。そして自然と足は道北に向けるようになって行く。何度も何度も通った。思うような釣果も得られない釣行が続いたある日、釣友が釣った85センチのイトウを見て、またも心を鷲掴みにされてしまった。それまで釣ってきた魚とは全然違うその迫力に本当のイトウの姿を見た気がしたのだ。それまでもメーターオーバーを狙うと公言して通い詰めて来たのだが、自分の考えが根本でから間違っていると気づいた。それまでの私はイトウに限らずニジマス、アメマス狙いで、全道を駆け回る釣り人だったがこの日を境にイトウに傾倒していく。同時にベイトタックルにも手を出しさらに夢中になっていく。ロッドはどんどんヘビーなものになっていき、プラグもより大きなものになっていく。市販のプラグでは満足できずに改造を加える。イトウに対する挑戦と同時に大河への挑戦でもあった。そんな釣行が続いたある日またしても釣友から一通のメールが入る。一枚の画像が添付されたそのメールはメータージャストのイトウの報告だった。その日一日、仕事中もうわのそらのまま就業時間が終わるのを待った。北へ向かわなければいけない、釣友を祝福しなければならない、なによりも川に立たなければいけない。思い切り釣友の手を握り祝福した後に心の中にあるのは私にもメーターオーバーをという気持ちだけだった。
丸二日間ロッドを振りつづけるもアタリひとつなく日曜午後、夕まずめ川に立ちこみながら思った。絶対メーターオーバーを釣る。10年いや一生かかっても良いからまだ見ぬ自分だけのイトウを追い続けると心に誓った。

その後109センチ、14kgという私にとってのメモリアルフィシュに出会えたのは数年後のことだった。もっと大きなイトウを釣りたいという欲求が生まれ、その思いは今も年々増していくばかりだが、いつの間にか私自身の環境も変わりイトウを取り巻く事情も変化しているように思う。禁漁期の問題、環境の問題、イトウに係わる人の問題、色々な意見がありまとめるのが難しいとの話も聞いた。
ある意味、いままで北海道は無法地帯で各自が好きなように釣りをしてきたと思う。
今の状況が昔と違うのはほとんどの釣り人達も感じていて各々が自分のルールを課して釣りを楽しんでいる。素晴らしい事だと思う。ただそのルールにも個人差があるのは当然でその自分の考えと合わない行為をしている他の釣り人に敵意をむき出しにする人もいる。ここで私が思うのは本当にイトウという魚を愛し、いつまでも釣りを続けたいのならばそれでは駄目だと思う。もし貴方が逆の立場だったら、敵意むき出しの人の意見に従うだろうか?
私たち釣り人はどうしたって魚体に傷をつけてしまう、どこかに矛盾が必ずあるものである。釣りをしない人から見れば魚を釣り上げて大事にしましょうというのは滑稽に映っていると思う。しかし私たちはその矛盾の中で釣りをすることを選んだのである。自分のできる範囲で最大限の配慮をイトウにして欲しいと思う。

金野氏に場所移動を提案し、即座に移動する。
ここは年々プレシャーが増してきていて、スレ気味になってきているが良い確率で私にイトウをプレゼントしてくれる大切なポイントだ。
雨は止まず降り続いている。若干の濁りだけで最高の条件と思われた。この状況なら2、3本はでてもおかしくはない。先にキャストしている金野氏に反応はないようだ。少し上流に移動し、クロスストリームで攻める。
この日のために改造してきた。シンキングチューンのマグナムレックスにも反応はない。プラグチェンジをする。いつも最後に魚を連れてきてくれるウッドのシートプス、金赤をセレクトする。私はウッドやバルサのプラグにはプラスティックルアーにはない魅力があると信じていて、実際何度も良型の魚を釣り上げているパターンである。
キャストを数度繰り返し核心部でU字を切る。

「ドバッ」、予想通り良型のイトウがシートプスに顔を見せながら出た。ベイトキャスター90が綺麗なベンディングカーブを見せる。良いサイズと確信した瞬間ロッドから生命感が失われた。すっぽぬけだ。表層に喰いあげてきたから掛り所が悪かったのだろうが、この一本は獲りたかった。
気をとりなおしてキャストを続けるが川は沈黙を守ったままとうとうと流れている。次々にポイント移動を繰り返し過去の実績ポイントを探ってみるが魚の反応はまったくない。夕まずめに振る場所を思案する。川の状況は決して悪くはない。

数年ぶりにあるポイントに最後のチャンスをかける事にした。最後のミノーはニューシートプス15.5センチ金赤に決めた。最後までこの一本を振り倒すと心に決めた。
刻一刻と日が沈んでいくが全く反応はない。数年前はいつも大小の魚達がまずめになると賑やかな波紋をみせてくれていたのだが、今日は静かな川面のまま何も変わらない。

一本の杭になり、淡々と投げ続けると急にロッドに重みが乗る。半信半疑でロッドティップに聞いてみると確かに魚が乗っているがファイトが弱い、ロッドを下流側に倒し即座に寄せると、小型ながら65センチのイトウが川岸に姿を見せた。魚の姿を見て安堵しながらも心のなかでは目標の半分のサイズに若干がっかりである。

その後も金野氏とロッドを振り倒すが何もドラマは起こらなかった。
早朝3時過ぎから19時半まで振って釣果は一本の小さなイトウのみである。
翌日も早朝からトライしてみるが前日の疲れから早々に切りあげ千歳空港に向かう。
私の道北釣行前半戦はまたもや二日間の短期間で思うような釣果は上がらなかったがこれで良いのだと思う。毎回メーターオーバーを狙っているが、毎回良い思いをするわけではない、毎回釣りたいという欲望は人一倍あるのだが、同時にイトウにはいつまでも手ごわい存在でいて欲しい、簡単に釣れる魚にはなって欲しくはない。

努力して汗をかいて悔しい思いをした人が手にすることが出来る崇高な存在であってもらいたいといつも思う。
再びメーターオーバーのイトウをこの手に。
いつか訪れるその時まで私はこの川に通い続けるだろう。
(2007年)

ザウルス・アソシエイト 岩井 淳利




Angler Photoアングラー ザウルス・アソシエイト 岩井 淳利
デカいイトウを釣るために週末だけの北海道釣行をくり返す情熱のベイトキャスター。客観的な状況分析と何事も譲らない強いこだわりでビッグトラウトだけを狙い続ける。「納得のいく、たった1尾だけでいい」と言い切る生粋のイトウ釣り師。東京ロッド&ガンクラブ所属。






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