今年も待ちに待ったイトウの季節がやってきた。 現状の北海道におけるイトウという魚の取り扱いは各地でフォーラム等も開催され非常に活発に議論が繰り返されている。 各自がそれぞれのイトウへの愛情を持ちつつ様々なアクションを起こしている。 そういった活動をしている方々には頭が下がる思いだがその一方でどの考えに従えばよいのか、時期や場所によってそれがどこに当てはまるのか、朱鞠内湖等、一部の漁協が存在しているところであれば話は分かりやすいのだがほとんどのイトウの川は釣り人のモラルで守られている。 このモラルというのが各自によって解釈が違うのが余計ややこしい。 私も試行錯誤しながら自分のルールというものを作りながら毎年北の大地へ向かっている。 参考までに私のイトウ釣りのルールを記そうと思う。 全てのイトウはキャッチ&リリース。これはただ川へ放せばよいというものではなく極力、岸に上げずに出来るだけ元気な姿で川に戻す事を目指している。私は釣り上げた魚の写真を撮影するのも趣味としている。 以前は岸に上げタックルと一緒の撮影をしたりしていたのだがこれも水辺で撮影したほうが断然魚に優しいし何より魚の目が違う。 魚との抱っこ写真を撮影することもあるが絶対にエラには手を入れないで欲しい。小さな傷を一つ付けた以外はもとのまま川に帰すよう努力したい。 タックルは8~9フィートのバットのしっかりしたロッドにラインはナイロン16lb.~20lb.ショックリーダーにフロロ40lb.12cm~18cmまでのプラグを使用している。私はラインブレイクが一番嫌いなので必然的にラインクラスは太くなるし使用しているプラグも小さいものは使用しない。小さいプラグを使用すると飲み込まれる確率が高くなりイトウの鋭い歯によってブレイクの可能性が増してしまう。 |
日の出から日没までを釣りをする時間としており、期間は5月最終週か6月頭を解禁とし11月いっぱいまでとしている。以前は川が開いていれば一年中ロッドを振っていたこともあったが現在は前述の期間を自分の解禁期間としている。 ではなぜ5月最終週から11月なのか? 産卵期のイトウを守るため?当然それもある。 現状のイトウの置かれている環境を知れば知るほど何か自分で出来る事はしなければという思いが募る。 自分の本当に愛してやまないイトウという魚を釣るという、相反する行為をすることに葛藤しながら真摯に考え、向き合っていきたいと思っている。 もっと大きなイトウに出会いたい。誰よりも大きなイトウを自分の手にしかも自分の理想のスタイルで。 イトウ釣りといっても色々な釣り方がある。 ルアーフライ餌釣り、上流中流下流、川の規模は小河川から大河川etc。 毎週車を走らせている人もいれば、各種データと経験を基にベストタイミングを狙っている人もいるだろう。 とにかくサイズを求めて大物を狙っている人もいれば、サイズ問わずイトウに出会えれば良いという人もいるだろう。 私自身はというとメーターを遥かに越えるイトウをキャッチ&リリースしたい。 ただ釣れれば良いわけではなく自分の決めた制約を守りながら自分の信じたタックルを使って、とびきりのイトウを釣り上げたいと思っている。 |
そんな事を胸に秘め、今年も北の大地に向かった。 毎年のことだが道中は雨である。ワイパーは最速でひた走る。場所は違うが則さん御一行も北海道入りしている。 雨男がこれだけ揃えば雪が降ってもおかしくないなと笑いながら旧友の河合と北へ向かう。 心配した雨も目的地に着くころには止んでいた。 まだ夜明けまでには時間があるが橋のほとりに車をとめて川を覗くと、良い感じに流れている。 東京とは違うひんやりとした空気が私を包む。 約半年ぶりだが、その間毎晩イメージしたパターンは無限にある。 昨年からテストをしてきたTS90HH-C「The Expedition]もサードテイクになった。 ニューシートプス13.5cmとのマッチングで大河を攻略するこのロッドがはるか遠くまでプラグを運んでくれるが、太い川の鼓動を伝えてくれるのみで待望のイトウからのコンタクトがない。 絶対釣り上げるという思いも弱気になり始めた夕方、いつもよりトロ瀬を攻めていた河合のロッドが曲がった。 静寂を守っていた川が水しぶきを上げる。間違いなくイトウだ。 丁寧によせるとまだ春の名残りを残したイトウが浅瀬に横たわった。サイズを測ると81cm。まずまずのサイズである。 写真を数枚撮り、元気に流れに戻ったイトウを見送り握手を交わす。 仲間のイトウが私にも勇気をくれる。 次の一本を求めて振り続けるが、一向に反応がないまま一日が終わった。 翌日も日の出からベイトの多かった場所を重点的に探るが、イトウの姿は見当たらない。 天候もすっかり回復し北の青い空が顔を覗かせてはいるが私の心はすっかり曇り空だ。 |
「昨日のイトウが最後の魚です」と河合に愚痴をこぼす。「1」か「0」かで釣師の心境は違うのである。 すっかりベイトのキャスティングが板についた河合の後姿を見ながら最後の夕マズメのプランを練る。 川はいつも通り淡々と流れている。 後悔のない釣行にしよう、駄目ならまたすぐ戻ってくるぞと思いながら最後のポイントにかけるがやはり反応がない。 もうタイムリミットまで僅かな時間しかないがもう一箇所だけやりたいと河合に相談すると快く賛成してくれた。 流れの筋にピンポイントでキャストするが反応がない。 半分諦めつつももう少し上流にキャストし長めにドリフトさせると突然イトウが突き上げてきた。 身をよじらせながら下流にくだるイトウに私は興奮を隠せない。 イトウ特有の大きな首振りが心地良い。 流れの中で身をよじるイトウにロッドをしぼり誘導する。 TS90HH-C「The Expedition]は柔軟にイトウのファイトに追従してくれるがまだまだ余裕のトルクを残しており私に安心感を与えてくれる。 無事に河合の差し出す特大ネットにイトウが収まった。 サイズを測ると81cm昨日の河合と同じサイズだ。 シルバーに輝くイトウを数枚、写真撮影し優しくリリースする。 充分だ。さあ帰ろう。 充実感に浸りながら帰路につき数日後改めて河合に感謝の言葉と、なかなか届かない次のメーターオーバーへの思いをメールにして送信する。 すぐに返信があった。 「サイズは次にとっておいてイイんじゃないかな、俺は久々に興奮したよ、記憶に残る一本で良かったと思うよ」 友の言葉が余計心に染み本当に忘れられない一本になった。 ありがとう友よ。 |
(2009年 7月)
ザウルス・アソシエイト 岩井 淳利
ザウルス・アソシエイト 岩井 淳利
アングラー ザウルス・アソシエイト 岩井 淳利 | ||||
デカいイトウを釣るために週末だけの北海道釣行をくり返す情熱のベイトキャスター。客観的な状況分析と何事も譲らない強いこだわりでビッグトラウトだけを狙い続ける。「納得のいく、たった1尾だけでいい」と言い切る生粋のイトウ釣り師。東京ロッド&ガンクラブ所属。 | ||||