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ザウルストレイン
森下 久志
ESSAY: Hisashi Morishita


ESSAY TITLE



高速道路を走る。
実に便利になった。
新しい高速料金制度を利用し、その利益を受けて釣りに出かけている僕が言うのもなんだけれど、これはこれで何か感じるところがある。
今ではトンネルを抜けるとすぐに目的地に着く。特に新しく創られた路は山を貫き、巨大な橋が谷を越え向うの山のトンネルとつなぐ。もはや日本国内に行けないところはない、そう思える。



近年、夏になると河の水の少なさに、ある人は雪が少なかった、ある人は雨が少ないと、ニュースでも同じような事柄が理由に挙げられている。
昔ながらの峠道をのんびり行くと頂上からは山並みが見渡せる。春霞の向うに稜線を眺めていると分水嶺も手に取るように見渡せる。
例えば僕が好きな奈良の山々。西に大阪湾側、そして東に熊野灘、伊勢湾側へ流れる水脈の分水嶺になっているはずなのだ。この地では春は山桜が美しく、冬には雪に埋もれるとても風趣に富む、昔ながらの日本の風景が残っている。実に素晴らしい、まさに手付かずの日本の自然が残されている。現代的に言い換えるとすればつまりそれが過疎なのだ。住めば確かに不便であろう。その不便さを住民に楽しめ、喜べとは誰も言うことはできない。現代日本の価値観では不便さは一つの悪なのだ。では、その不便さを解消するために山を貫くトンネルを掘り高速道路をつなげる。


報道で聞いた話で甚だ恐縮ではあるが山には水脈という水の道が通っているそうだ。水のトンネルが縦横無尽に山々の地中を駆け巡っている。ほんの少しだけ想像力を膨らませてみるとこの水脈というものが日本中の河の源となっている。もちろんそこには水源林があっての話ではあるが・・・。この熊野の地にも便利な魔法のトンネルの計画があるようなのだがその向こう側に何が待っているのだろうか。


さぁ、東北の街に着いたら一番にやりたいことがある。ご贔屓にして頂いているショップがお休みなのでいつものあの蕎麦屋へ一直線に向う。僕は今日も迷うことなく大もりを注文するのだが、かけ蕎麦にもりを一枚、いつも決まって渋い注文をする則さんは当然いない。改めて淋しさが募る旅となった。
ようやく辿り着いた河は昨夜からのダムの放水でまったくお話しにならない。それならば、と一晩のんびり過ごした後、翌日に新潟を目指すことにする。
日本海に抜ける街道はいつものように僕を待っていてくれた。何も変わらない、いつもの田舎道。釣りは翌朝と決めて川筋を確かめながら、今日は買い物やあの温泉での一時を楽しみにハンドルを切る。
新潟はやはり東北とは違う。どこか雰囲気が違うのである。
田んぼの作りや、山の手入れの仕方、気のせいかと言えばそれまでなのだが県境を過ぎると光景が少しずつ変わっていくのを感じる。それに鮭が軒先に吊るしている光景。僕は山形では見かけた事が無い。鮭川村辺りの初冬にはこんな風景があるのだろうか。僕はこの風景に歴史的な何かを感じる。鶴岡藩と村上藩。どちらの藩も栄えた比較的、裕福な土地柄なのに文化的にはこうも違うものかと感心してしまう。


翌朝、何とか起きることが出来た。 急いで河に向かう。遅くなったが今年の初キャスト。ユキシロで重く、鈍く濁った河にルアーをキャストする。少し遅いが今シーズンのスタートである。
そんな出遅れた僕の竿にも運良く1匹のサクラマスが掛ってくれた。
おっと、そう言わないでよ。東京から遥々ドライブしてきて年に何度もこの釣りをできないでいる僕とロコアングラーとの腕の差を比べないでくれないか!当り前ではあるのだけれど僕は釣りが上手いわけではない。思い込み、それに運と道具が良いのだよ。


今回は特にガイドさんも良かった。持つべきものはジモティーの友である。その友人は出来れば料理が上手くて、釣りが上手いこと。新潟の冨田君はまさにこの希望にバッチリ当てはまる。彼の豊富な情報と土地勘を活かしたポイント選び、これに尽きる。
なんせ、魚がいるであろうそのポイントまで案内してもらって先に釣り下らせてくれるのだから、これなら僕でなくても釣れて当り前。でも本心はそうは思いたくないんだな。オレを待っていたオレだけの運命の一匹だと信じたい。


今回はロッドのテストも兼ねていたのでレックス・ディープとミディアムディープだけを使って釣りをした。釣り方としてはユーイフェクツやダウンクロスになる。新しいロッドの性格がその部分に特化しているためである。ディープミノーはこれからに時期には必ず備えておくべきだ。
僕の考えるディープミノーの利点はロッドのアングルでシャローからディープまで使い分けが出来ること。もちろんディープと言うだけに深場を狙うのに良いのだが、複雑な流れの中で果たしてどれだけの水深を潜航してくれているかは甚だ疑問である。


肝心なロッドはTS86H-C。できれば来シーズンにリリースしたいと願っている。ノリスのように軽快なトゥイッチングロッドではなく前記のようにユーイフェクツをいかに完結させるか、それがこの竿のコンセプトなのだ。従ってアクションもハンドル長も、ガイド設定も全く違う。
今回のポイントのように流れが強い場所ではティップが少々、弱く感じられるかもしれない。しかし、そこが狙いなのだよ。流れが強ければミノーはアクションを加えなくてもある程度、流れの中で暴れている。ティップが強くなればさらに予期せぬ動きをするはずだ。
サクラマスに確実にミノーを襲わせるためにロッド全体でその動きを制御する。キャスティングもロッドにルアーのウェイトを乗せて十分にしならせて送り出すトラウトスピンならではのテーパーに仕上がっていると思う。肩から背負って大振りする必要がない。スナップを利かせて投げられる。その後、マスがミノーに食いついたら、マスが反転、もしくは流れの作用とマスの自重で十分なフッキングを得られるまで竿先は「グーッ」と入る感じ。ティップが硬いとこれが出来ない。あとはボロンの利いたバットで「グイ、グイ」と追いアワセを入れてやればこの釣りでの前半の貴方の仕事は終わる。
ガイドメーカーの方針でザウルスお得意のSVが廃番となったためMN仕様に変更した。剛性は落ちるものの軽量化によりブランクへの負荷が軽減されて本来のアクションが活きてくる。


今年の3月、4月は仕事上で信じられない事の連発、震災の影響などから日々、デスクワークから抜けられず、仲間からの釣果報告にも内心では「バカヤロー、何を言ってんだ!俺だって釣りに行きてーに決まってんだろー!」ってな多少、卑屈な感じで過ごしていた。だからGWの中間だけは何があっても絶対に休んでやると心に決めていた。


1発目の当たりはガイド役の冨田君、彼のロッドにきた。
「ゴン!」っと、ミディアムディープにアタックしたようだがフッキングしなかった。結構なハッキリした当たりだったらしく、悔しがっている。
僕はショートキャスト派、というより全開フルキャストの釣りが気分的に一日もたなくなってきた。目をギンギンに光らせて一日中頑張っていると体より先に気分がくたびれてしまう。断じて加齢のせいではないことを付け加えておく!気分の問題なのだ。
ポイントによっては10mも飛んでくれれば後はこちらで工夫して何とかしよう、その方がミノーを思い通りに操れる、そう考え方が変わってきている。速い流れではショートレンジの方が確実にミノーを操れると感じている。


古くからこの地では桜が咲くとマスが釣れると言うそうだ。
冨田君へのアタリ、その後、5分もしただろうか。
流れに乗ったミディアムディープのアクションを少し抜いてやった、次の瞬間だった。
不意に訪れた僕の運命の一匹との出会い。
春の重たい流れに乗って下流へ、下流へとマスは落ちてゆこうとする。
それも叶わないと知ったマスはフックから逃れようと何度も水面を割る。
サミングでドラグを調整しながらバットエンドを腰に当てためる。新しいロッドはただ緩やかに曲がり僕がイメージした通りの働きをしてくれる。
ユキシロに磨かれた、引きの強い完璧なサクラマス。
僕はネットにフックが絡まないように十分にフレームを沈めてマスの真下から一気にすくい上げた。
5月5日、雪国の晴れた素晴らしい春の朝。
午前9時過ぎの出来ごと。
グラマラスで銀色に輝く美しい魚体、僕の恋する春告げ魚。
すべてがザウルスを通して出会った絆のお陰だった。
たった一匹のサクラマス。でもこの一匹で僕の中で何かが変わり始めるような予感がする。
ありがとう!トミちゃん!ありがとう!則さん!僕は本当にザウルスで良かった。


別れ際、ガイドのお礼にボックスからいくつかのミノーを手渡そうとしたら「そんなにいらない。その代わり今日、釣れたカラーを下さい。」彼はそう言って一本のミノーを受け取ってくれた。歴史あるこの街の人々に忘れかけていた日本人としての心持ち、良識を思いがけず教えられた気分だ。とても清々しい、とても晴々とした気持ちにさせてもらった。オレだったらボックスごともらうぞ!



たった一匹でいいから自分の思い描いたストーリーの中で思った通りに釣り上げたい。それが僕ら、ザウルスの釣りなのだ。これからもその一匹、一生にただ一度だけの出会いに僕の釣り人生の全てを捧げたい。命をかけて僕のルアーに挑んでくる一匹の魚に最大の敬意を込めて。冨田君の手元に託した少し傷ついたあのブルピンの半ディープが再びサクラマスを誘いだす日もそう遠くはないだろう。吉報を待つ。



北国にようやく春がやって来た。今年は雪が多かった。山里の河原にはまだ雪が残っている。これから迎える初夏の河には僕らを気持よく楽しませてくれるだけの水量がたぶんあるのだろう。でも多少の心配は残る。水は枯れないだろうか?あの山並みの水脈は健全だろうか?


僕にも少し遅れて春が来た。
相変わらず二日酔いの冴えない頭で河に立つのは今まで通りだけれど、目の前に現れる景色は少しずつだけど長いトンネルを抜けたように何か違って見えている。
2011年5月、こうして今年も僕らの旅が始まった。



That's It!

ノリスキャストではないが僕や僕らの旅に欠かせない一本の酒だったり、その土地の美味いものだったり、想い出だったり、That’s it ! と声を上げたくなるあれこれを書き連ねていきたい。


最初の一本は「越の三鶴」の一つ、江戸時代より続く村上の美酒、〆張鶴。
呼び名を「しめちょう」なんておっしゃる方々もいるくらいにその熱いファンは多い。この酒の素晴らしさも、もちろん則さんに教えて頂いた。等級は花、月、雪とその細部までの独自の価値観で表現されている。このこだわりが美しい。そんなところに則さんも魅かれたのは間違いないと思う。
淡麗辛口なのにしっかりとした芳醇な味わいなのに飲み飽きしない切れの良さが素晴らしい。特に則さんがお気に入りだった「月」はぬる燗でやるのも香り、うまみが湧きだしてきてまた違った素晴らしさがある。初めて燗をいただいた時は「このおやじは一体、何をやらかす気でいるのだろう?」とても怪訝に思えたのを覚えている。もし貴兄が燗酒を試みるのであれば2合目はぜひ、おかんたーじゅを試して頂きたい。さらに角が取れて味わいに丸みを帯びてくるのが良く分かる。


さぁ、今宵の晩餐はトミちゃん特製のうるかに帰りの道中、道の駅で買い占めてきたこの時期ならではの山菜。うるい、ウド、こしあぶらに行者にんにく、その他名前を覚えられず・・・。これらを天ぷら、炒め物、和え物、お浸しに。親分にキャンプで野点の天ぷらをやれと命じられるあの恐ろしさを考えれば室内での料理は何事も極楽。さらに富山のマス寿司を加え迎え撃つ食事たちも完璧なラインナップ。さぁ、今夜も一歩も退かない投手戦、いや打撃戦。延長戦も覚悟の永い夜になりそうだ。


(2011年5月)




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