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SAURUS > エッセイ > 森下久志 > 幸せのケセランパサラン
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ザウルストレイン
森下 久志
ESSAY: Hisashi Morishita


ESSAY TITLE



ケセランパサラン。
それは幸せを運ぶ使者。
信じるか、信じないか。
信じる者は救われる。

今年も僕は九頭龍川へやってきた。
サクラマスに会いたくてやってきた。
そうすることで僕は幸せになれると信じている。
福井までは東京から6時間以上のドライブ。
ちょっとした苦労だ。
九頭竜川にはそれに見合うだけの何かが待っていてくれるはずだ。
車を運転している間中、僕はそう信じて疑わなかった。

今年の解禁日は静岡の外岡さんに遊んでもらうことになった。
後に幸せを独り占めにするこの快漢、本当に釣りが好きでサクラマスはもちろん、渓流も、バスもやれば磯もサーフも、最近ではタチウオのジギングまで楽しんでいるらしい。
面倒見も良く、真面目な人間性も相まって各方面に友人も多い。
そんな彼もなぜか今年は一人。
いいじゃん、二人で楽しくやろうよ。
そんな外岡さんは解禁前夜の夜中に着くというので僕は1月31日の夕方、九頭竜川に入りいつもの銭湯で湯に浸かり、いつもの宿泊場所で一杯やって早めに寝るつもりでいた。
ところが最初の幸せは少し早めにやってきた。
なんと外岡さんは9時過ぎにお土産持って彼がやってきた。
これも僕にとっては幸せの一つ。
せっかく良い子になって早めに寝ようとしていたのにさぁ、そんな美味しそうなものを持って来ちゃ、おめぇよ~、もう一杯やるしかないじゃん!

次の幸せまで残すところあと10時間。

今年の解禁の朝も当然、冷え込んだ。
星が瞬く快晴の放射冷却ビンビン。
外はマイナスの世界だがせっかく早起きしたのだからやるしかない!
気合を入れて着替える。
ポイントまでは外岡さんの軽四駆にお世話になることにした。
やっぱり釣り場ではこいつに限る。
軽の四駆は川辺の最強車両だ。
車止めでは平日だというのに暗いうちからすでに数人のアングラーが早くも用意を始めている。
想いかえせば10年以上前はもっと凄かった。
ザウルスの若手は社長のために大雪でもラッセル担当として夜中から場所取りで、まだ暗い河原で寒さに耐えていたっけ。
そして明るくなるころには見える範囲には20人くらいのアングラーが陣取っているのが当然の光景だった。
あの頃とは隔世の感があるのは否めない。
それが10年余という歳月の永さなのだと改めて思い知らされた。

あなたはケセランパサランをご存じか否か。
神様に送られた幸せの使者。
時に風に乗って空からフワフワと、時に吹かれて林の中からコロコロと。
昔からケセランパサランを見つけると幸せになれると言い伝えられている。
ポイントへ向かう途中、それは今年も僕の目の前に現れた。
気にしなけりゃ、気付かない。
気にしなけりゃ、枯れ草と見分けもつかないかも。
汗をかかないようにゆっくりと雪を踏みしめながら歩いていた途中、今年は不意に林の中から現れた。
足元にコロコロ、コロっと風に吹かれて現れた。
よし!吉兆だ。


2013年の初キャストのポイントは外岡お勧めポイントである福井大橋の上手、通称「ドカン」。
彼はこの橋より下では立つモノも立たないそうだ。
暖かくなればもっともっと上流のポイントを目指す彼にとってはこの橋がオフサイドラインなのだ。(もうチョッと緩くても良いんはでないかい…)
ポイントに着くと先行者がすでに釣りを始めている。
せっかく早起きしたのに、何とも間抜けな話である。
先行者を待つ間に外岡さんが手際良くお湯を沸かしてコーヒーを入れてくれた。
この余裕、この気遣い、これなのですよ!
やがて河の上流側、東の空に日が昇る。
朝日に向かい両手を広げ、思いっきり深呼吸すると僕の中の全てがリセットされる。
心の垢が落ち、体内の全ての邪気が吐き出されていく。
いよいよ2013年の始まりだ。

いよいよ幸せの本番まで1時間を切った。
ようやく先行者との間には十分な距離が空いた。
さぁ、行きますか。
冷え込んだせいで雪代は止まり水の色は最高!いれば一発で喰ってくるだろう。
二人並んで瀬の頭から流し始めると気分がどんどん高揚していくのが自分でも分かる。
気温-2度、水温4度。
僕はティーレックス11cmで流し始める。
この時期ではまだ瀬の中は早いかな。
とは言え、何事も前儀が大切である。
相手もある事なのでいきなり本番ではうまくいかないでしょう。
かつて地元のご老体方にはご丁寧にもっと下流に行けと何度も諭された覚えがある。
でもね、低水温のこの時期に瀬の中にサクラマスがいないとは誰にも断言はできないのだ。
瀬が開きトロ瀬から水深のある開きへと続く。
先行のアングラーは上がった。
「この時期はここからが本命です。少しやりづらいですが岸に上がって枯れ草の間からキャストして下さい。」
了解である。
ガイドさんのアドバイスは素直に聞き入れるのが成功への第一歩。
しかもまさに天使が舞い降りた如く、ここのポイントは水深があるのでレックス・ディープでも使ってみよう、などと殊勝な心構えまで芽生えた。
これが間違い!
食い気があれば水深も水温も全く関係はない。
トップウォーターを長年やっていれば分かる至極単純な答えなのだ。
なぜ僕は自分からサクラマスににじり寄ろうとしたのか、その時の僕は欲の塊だったのだろう。
果してサクラマスは僕のレックス・ディープではなくややロッドを立てミディアムディープで表層をじっくり流していた外岡さんのミノーにサクラマスは反応した。
「きたよー!」
快心の自身に満ちた声が辺り一面にこだました。
マジか!うぉ~!!
10メートルほど離れてファイトしている彼の元に駆けつける。
そこで繰り広げられていた光景。
ラインが走り水を弾き上げ、小さな水滴となってまた水面に落ちる。
澄んだ水の中で彼女は白銀のその身を大きく捩り、喘ぐように悶える。
その声までも聞こえてきそうなくらいだ。
その姿は僕の眼にはとてもグラマラスに映る。
とても官能的でまるで命を燃やし尽くすように抗い続ける。
水面近くで尾ビレを叩く度に気泡を巻き込み、それが宝石のように輝きながらそしてまた水中に消えていく。
まるで自分がファイトしているかのように見入ってしまう。
急深な岸辺で腰まで河に浸かって岸に生えた草をかわしながら慎重にじりじりとサクラマスを寄せる。
幸せまであと3メートル・・・
彼女はなおも抵抗を試み、自分の自由を奪ったその忌々しい呪縛を振り解こうと何度も何度も首を振る。
しかし最後に彼女は力尽き、その美しき魚体を水面で震わせる。
そして彼は迷うことなく彼女を抱きしめるかのように一発でネットイン。
やった・・・
外岡さんが手にしたその魚体は完全無欠、非の打ちどころのない、まさに神様が創りだした白銀の完璧な造形美だった。


ケセランパサランと出会うと僕は間違いなく幸せになれる。
夕べ、仲間が高速を飛ばして早めに逢いに来てくれたのも、こうしてサクラマスに出会えたことも、きっとこのケセランパサランが運んできてくれた幸せだったんだ。
こうして九頭竜川で出会ったケセランパサランは間違いなく僕ら二人を幸せにしてくれた。



幸せはその人の心が決める。
今、僕は幸せだ。
バカ高いザウルスのロッドにABUのCDLじゃそれだけで20万コースじゃないか。
そんなタックルでザウルスのスタイルでサクラマスを狙うアングラー達がいる。
カッコ良過ぎでしょう。
夢があるでしょう。
そんな夢を一緒に見ているザウルスバカが全国にいてくれる。
これこそが今の僕にとって最高の幸せなのだ。


人々に幸せをもたらすケセランパサラン。
僕が信じたもの、それは本当はケセランパサランではないのかもしれない。
信じるも信じないも自分次第。
信じた僕には今年も幸せな春が来た。
でも、きっと僕にとって本当のケセランパサランはザウルスと全国の愛すべき友なのだろう。
今年も僕の幸せ探しの旅が始まった。




That's It!

「The Days of Wine and Roses」 ~酒とバラの日々~

夕方の川辺で過ごすトワイライトに美味い料理とアルコールだけでは実はチョット淋しい。
そこに心躍るような音楽などあれば今夜は最高。
今回はそんな時にピッタリの1曲。
「The Days of Wine and Roses」
釣り場でのキャンプの日々はまさに僕にとっての酒とバラの日々なのだからこの曲がイイに決まってる!!
九頭龍の夕方に泡を飲みながら聴いたけど、トノ様は覚えているかな。
僕の知っている限りでは1962年、この曲と同じ「酒とバラの日々」という題名の映画のタイトル曲でアイオワ生まれのアンディー・ウィリアムズが歌ったヘンリー・マンシーニの傑作。バラ色のいわゆるセレブな生活を送っていた夫婦が一転、酒に溺れるような暮らしに溺れてしまうまでを描いた物語。
主演はアカデミー賞の名優のジャック・レモンと主演女優リー・レミック。アルコール依存症患者、いわゆる人の持つ性格的なひ弱さをシリアスに描かれている。誠に残念ながらアカデミー賞の頂には届かなかったのだが、この曲はアカデミー歌曲賞に選ばれ、またグラミーでは最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、最優秀編曲賞を受賞した。
そう、まさに傑作、秀作、名作なのである。聴いて損はない、いや聴くべきである。
ジャズのスタンダードナンバーとして広く演奏されているこの名曲。
アンディーの甘い歌声も隣にいるのがチョッと気になる女性なら悪くはないが、釣り場での僕のお気に入りはやはりあの有名なオスカー・ピーターソン・トリオのパーフォーマンス。
64年、ヴァーヴ・レコードからのアルバム、「We Get Requests」に収録されてます。
ベーシストには名盤請負人のレイ・ブラウン、ドラムはもちろんブラッシュマスターのエド・シグペン。
まさに「ザ・トリオ」なのであります。
ボサノバの父として著名なジョン・カルロス・ジョビンもコンポーザーの一人として名を連らねている。
ボサノバ・タッチの「Quiet Nights of Quiet Stars」や「The Girl from Ipanema」など後に流行する演奏の源流がこの一枚。
他にも後の名コンポーザーが参加しているので興味があれば聴く価値は大あり。
ところでこの曲「The Days of Wine and Roses」は上記の諸々の理由からとりわけジャズピアノにおけるスタンダードとしてその後の多くのプレイヤーに多。大な影響を及ぼしたと思うのであります。
だから「We Get Requests」はジャズの基礎編。
メロディーも何もかにもが美しすぎて面白みに欠けると言われればその通りかとも思いますが、この際そんなことはどうでもイイのです。
インプロービゼイションだけがジャズではないのであります。
まぁ、詳しくはぜひとも聴いて下さい。
ひたすら明るく、のびのびと奏でられる力強いタッチ、その明快なリズムには悲哀や感傷の類はかけらも感じられない。
いわばこの軽さが釣りの後、夕方の川辺での癒しのひと時への最高のイントロとして雰囲気作りの邪魔をしない。
しかし酒とバラの日々は、いつかは終わる、そのことを彼のピアノは感じさせる。
注意深く聴いていればその儚さは十分に伝わってくる。
万人受けだろうが軽かろうがそれがイイのですし、そこは全くもって問題ではないのであります。
あらためてピアノトリオはいい。
ジャズという音楽は基本的に説教臭くなるものだが、コンポーザーやアレンジャーのイマジネーションによってこんなにも自由に羽ばたくことが出来る。ポップスやロックにはなかなか真似の出来ない芸当ではないかな。
ジャズは小さなハウスも良いがやはりお皿で聞くに限る。
暮れはじめた黄昏時を楽しむにはここの曲しかない!
いやいや、待てよ!ピアノではないがアート・ペッパーのWebb City も外せないぞ!
知ったかぶりはこの辺にして、なんて思うころには、あ~、今宵も何とも眠るには惜しい一夜になってしまった。
さて、次のグラスはどうするかな。


(2013年3月)




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