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SAURUS > エッセイ > 森下久志 > 親愛なるノリス・ベアとノリス・ジャックへ
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ザウルストレイン
森下 久志
ESSAY: Hisashi Morishita


ESSAY TITLE



ひんやりとした空気の東北の夏の朝。
8月、早朝のコンビニで久しぶりに会う懐かしい仲間と待ち合わせた。
国道7号線沿いには以前からこんなに沢山のコンビニなんてあったかな・・・



今回の目的は新しいバスプラグであるダイビング・ジャックを使い込んで自分のモノにする事、
そして釣果を出す事。

仲間の話によると昨今の八郎潟は遠征のアングラー達が極端に少なくなっているそうだ。
そう言う僕も八郎潟に来るのは本当に久しぶりだ。
釣り人が少なくなった。
特に遠征のアングラーはめっきり減ってしまったようだ。
以前のように何処でも釣れて、誰でも釣れて、たくさん釣れた時代ではないと言うのも一因の様である。
人は正直だ。釣れなければ寄り付かなくなる。
それが釣り場を再生させる薬になるのかと思ったがそうでもないらしい。
バス釣りに関しては色んな意味で年々、厳しくなっているようだ。


それでも八郎潟に行けばそれほど苦労せずに釣れるだろう、何といったって地元エキスパートのガイド付きだ。
だがそんな浅はかな考えはどうやら今では甘いようだ。




何年も前の事、確か釣り雑誌で読んだと記憶しているのだが
トップウォーターのメーカーの方がデカいバスが釣れた時間帯をご自身の体験、
仲間の情報などで統計を取った記事を見た事がある。
これまた記憶だと確か10時、11時頃がランカーに出会えた確立が高かったと言うのだ。
マズメ時よりも昼近くになった時間帯だと言うのが興味深くて
今も何となく覚えていて心の御守りにしている。

サクラマス釣りでも僕は11時を信じている。
これは自分の体験に起因していて、仲間の中にはオレは7時だ、いや9時だと
それぞれに思い入れのあるタイミングがある。
こんなちょっとした事が自信につながるし、その時間帯は集中力が増す。
信じているのは自分だしハズレたとしても誰かを恨む事もなく、
信じるモノが必要になった時に迷いが無くなる心のサプリメントみたいなモノだ。
今回もコレが良かった。朝一から4時間以上投げ続けてバイトは1回のみ。
その後、ようやくイチバラシ、続けてライギョ。
いよいよ魚っ気が出てきた。
ところが夏の日射しが容赦無く照りつける。時々、集中力が途切れて
トンデモないミスキャストをしたりする様になってきた。
それでも僕は休まずキャストを続けた。




昨年の12月から則さんが残した2頭のラブラドールと一緒に暮らすことになった。
名前はベアとジャック。
ベアは白ラブで“ポーラーベア”から、ジャックは黒ラブで“ブラックジャック”から名付けたそうだ。
2頭には少々、狭いかも知れないが家族4人と犬2頭の東京での共同生活。

犬と暮らすこと、そして送り出すことを教えられた。
2頭とも高齢だったのでそれほど長く一緒に居られるとは考えてはいなかった。
同時に何かあっても延命はしない事と心に決めていた。
やはりベアは4月に、ジャックは7月に逝ってしまった。


マイペースのベアは具合が悪くなったらそれ程日を置かず、
しかも殆ど患わずに勝手にさっさと逝ってしまった感じだった。最後までマイペースを貫いた。
甘ったれのジャックは具合が悪くなると泣いて僕らを困らせた。
夜も明かりを消すとク~ン、ク~ンっと何とも淋しそうな鳴き声を出す。
横にいて体を擦ってあげないと泣き止まないものだから最後の数日はずっと一緒に寝て過ごした。
ジャックは立ち上がるのも大変なのにトイレの為に外に出ようとする。
ベアの時もそうだった。
オムツを付けて、トイレシートを敷いてその場でやっても大丈夫なように整えてあげても
余程苦しくない限りは何度も何度も立ち上がろうとする。
見かねて抱きかかえて外に連れていくと安心したようにすぐに用を足す。
しかし部屋に帰るためには階段を2段登らなければならない。
当然、登る事は出来ないのでまた抱きかかえて連れ帰る。

この子たちはお手も、何の芸も出来ない。しかし誇り高き猟犬だった。
そのプライドが粗相を許さなかったのかもしれない。
ジャックも元気なころは散歩の為に外に出せば本当に嬉しそうに
飛びあがって喜びを表現してみせてくれた。
時には何度も何度もジャンプして、挙句にはよろけて尻もちをついて僕らを笑わせた。
犬達は本当に表情豊かで正に僕に何かを話しかけているような仕草と目をしていた。

若き日のジャックはノリスのハンティングチームではレトリバーとして大いに活躍した。
ゲームバードの猟期は冬場だ。エースのレックスが追いつめてポイントし、
則さんの合図でゲームをヤブの中から飛び立たせる。
どの方向に飛び出すか分からない。見事に撃ち落とせば冬の凍てつく川に落ちることも珍しくない。
ここからジャックの仕事が始まる。
ジャックは真冬でも寒さなど全く意に介すことなく果敢に川へ飛び込み、
流れに逆らい則さんが撃ち落とした獲物を回収してくる。
則さんのバードゲームには不可欠な一員だった。

そんなジャックと一緒に暮らしているうちにまるで生まれた時からの
家族のように思わせてくれるほど愛おしくなった。
苦しいはずなのに女房が帰ってくれば立ち上がって玄関まで
ヨロヨロと歩いて行ってお迎えしてくれた。

情けない話だが彼らが逝った晩は涙が止まらなかった。
2日も3日も悲しくて、悲しくてどうにもふっ切れなかったのを覚えている。







今日のタックルはジョンボートに3人乗船だからとり回しを考えて
ロッドが BC56-2。ボートから障害物周りを攻めるのにこのレングスが非常に良い。
このロッドは弾性の違うカーボンを使いボロンで腰を持たせた。
特にペンシルベイトなんかをクイックにキビキビと動かすには最適なアクションで気に入っている。
リールはABUの5000番にラインはバスザウルス50ラインの16Lb。
ペンシルベイトを演技させる場合はもっと細いラインが理想なんだけど、
八郎潟周辺のフィールドはどこもカードカバーがあるし、
ライギョの攻撃も考えるとこれ以上はラインを細くはできない。

午前11時頃、岸際の木の枝が水面近くまで迫り出して陰を作っている
その枝の隙間に送り込んだ僕のダイビング・ジャックは岸スレスレに見事に着水した。
非の打ち所がない良い出来だった。
水面の波紋が消えるのを待ってファーストアクション。
まるでジャックが喜んで飛び込むように勢い良く川面を揺らした。
そのアクションが作り出した波紋の一の輪が収まり、二の輪が解け、三の輪が広がり始めた時、
左の枝の陰からいきなりバスが飛び出してきて僕のダイビング・ジャックを
ためらわずに一口で咥えて反転した。それは一目で明らかにナイスサイズと分かった。

「よし!喰った!」



思わず口をついて出たその一言と同時に合わせを入れて更に確信した。
コレはいいモンだ!
それでも40オーバー、45絡み位にしか考えていなかった。
同船の二人の方がデカい!デカい!と連呼していた気がする。
それ位、僕は不思議と落ち着いていた。
胸のドキドキも、あの息苦しさも、頭が真っ白になって全身がカーッとなる、逆上(のぼ)せた様な興奮もない。
派手なエラ洗いのあと船縁で突っ込み、また水面に飛び出して派手なジャンプを繰り返す。
その光景をまるで俯瞰(ふかん)しているようだった。
脳裏を過ったのは釣っているのは僕じゃないみたい、そんな頓珍漢な想いだった。今考える事かよ!
近付いてきたそのバスは惚れ惚れとするような見事な魚体だった。
まさに僕にとってのワンダラーだ。
流儀に法って下アゴに手を掛けると最後の抵抗をみせたが僕はそんなに間抜けではないよ。
そして僕は落ちついてバスを水面から持ち上げた。
メジャーを当てるとそれは立派な50アップだった。




もたもたしていると人生はあっという間に過ぎていく。
それでもグッと腰を落として全てを受けとめると色んなモノがブツかってくる。
その一つ一つが僕の人生を彩る糧となる。
そういう体験を拒まないことがとっても重要なんだと教えられた。
暑い夏の日に人生で忘れることが出来ない一匹に巡り合えた。
きっと則さんとジャックとみんなに釣らせてもらった一匹。
僕にとって忘れることが出来ない見事な人生ストーリーだ。



僕は八郎潟の力を信じている。
きっと甦ると信じている。
昔ほどではないにしてもまた大勢のアングラーを楽しませてくれるはずだ。
だからまた八郎潟へ行こうと思う。
昔、あれだけ楽しませてもらったんだからさ。
アングラーが戻ってくればバスも戻ってくる、そんな無茶な理屈は無いのは承知で。



サイドミラーに映る真っ青な夏空に湧き立つ純白の入道雲に後ろ髪を引かれこの地を離れ難く、
僕は車の窓を開け青臭い夏の風を全身で受けながらしばらく7号線を走った。

9時間もかけて帰りついた部屋に入るとわずかに犬たちの香りが残っているような気がした。

for you, Bear & Jack.

この夏の一日の出来事の全てを最良の友、ベアとジャックに捧げます。

    



That's It!

スゥエーデン鋼の誘惑

僕は、というかザウルスのスタイルはバスのトップウォーターであれトラウトのミノープラッギングであれABUのアンバサダーが不可欠な存在だ。
則さんも多くの仲間達もそれを使っているし全会一致で異論を挟む余地は無いと思う。
ではABUの何がこんなにも僕らを誘惑するのか。
専門家でもないしABUの歴史にも詳しくないのでその筋の方に言わせれば「何を知ったかぶって」となるのだろうが、まぁ、僕の駄弁に少しお付き合い下さい。
基本はトップウォーターには5000と5500C、ミノープラッギングには2500Cと1500Cを中心に使う。
トップウォーターロッドのグリックみたいにオフセットになっているリールシートには背の高い5000番台は非常にバランスが良い。見た目の美しさも扱いやすさも含めて。
トラウトロッドのようにストレートハンドルには背の低い2500C、1500Cがこれまた具合が良い。
ABUの良さはもちろんデザインはもちろんそうだが機能の面はどうだろう。
最新機種との比較はナンセンスであるし、お世辞にもその造りが緻密であろうはずがない。
サイドプレートを開けた時の機械っぽさがキャブレター時代の車やバイクみたいでこれまた男心をそそる。
則さんは生前、5000番のブラスのブッシングのキャスティング時の“コロコロ、コトコト”したあの感じがとても好きだと言っていた。
これまた全くその通りで抗う余地は無い。
番手の末尾にCが付くとどうだろう。
このモデルはボールベアリングが装着されたモデルだ。
則さんにはバカにされたが僕はCAのパーミングカップモデルも好きだ。
それはそうと末尾のC。
先日も仲間とこの話題になった。
スゥエーデン鋼を鍛え上げて造りだされたボールベアリング。30年超の歳月を経て当たりの出てきたあのシルキーなキャストフィーリング。
例えるならまるでベンホーガンかクリーブランドのパーシモンヘッドとスチールシャフトのドライバーで糸巻きボールを打った時の糸を引くようなあの打感。ヴィンテージのハーディーかペソン&ミッシェルのバンブーロッドとシルクラインを合わせたあの粘りつくようなフィーリングにも通じると思う。
飛距離がどうのと言われるとそれはもう、気持ちと勢いとある種の潔き諦念でカバーするしかない。理屈はゴルフと一緒だ。しかし僕らの釣りは競うことが目的ではないので心配することはない。
確かに仲間にだけ釣れれば歯がゆいものだがそんなことは次のチャンスに期待してうまいマティーニでも飲んで忘れてしまいましょう。
それでもまだそこに固執するのならジャパンメイドの精密なベアリングに変えてその他、色んなパーツを組み込めば良いだけのこと。
それがABUであるか否かは価値観の問題であろうからその人が納得できるようにするのが良かろう。
いっそうの事、国産の最新リールを選ぶことが満たされるゴールへの最短距離である。

僕らがバーコのプライヤーに目を付けたのもスゥエーデン鋼だからだ。
バーコの良い物に当たればラインを切っただけでも「ピーン」っとまるでスチールの弦を弾いた様な美しい音色を奏でる。
だから僕は、あくまでも僕はABUを構成する要素でこのスゥエーデン製のベアリングが最も貴重な存在ではないかと考えている。
古ければ古いほど良い。
こうしてABUは僕を誘惑し続ける。
一度コイツに恋すると新しいモノにはなかなか浮気はできない。
もしその事を気に留めなければついぞあの感動を味わうことなく別の道を歩むこととなる。
これまたスケベな友人との会話に出てきた。
開高健と吉行淳之介ではないが行くところまで行ってみるものだ。しかし狭き門より力を尽くして入ったそこは何もなくただの空洞であったと・・・
それが良いという御仁もおられるようだが・・・


(2014年9月)




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