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SAURUS > エッセイ > 田中秀人 > 増水のサクラマス in 三面川 (1)
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Tokyo Rod & Gun Club
田中 秀人
ESSAY: Top Notch


第1話 | 第2話 | 第3話
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春の長雨が続く今年の4月中旬、私は北陸道のトンネルが数十個も連なり、睡魔に襲われる区間を抜け新潟県下越地方(山形県との境)、村上市に位置する三面川を目指している。
釣友は前日から三面川入りしているが、上流にあるダムの放水で少し水が高いとの連絡が入っている。雨は午前中に上がり、夕方からは水が引き出すはずだ。この状況だと明日は最高の一日になるかも知れないな。釣り始める前は、いつも何故か思考回路がスーパーポジティブになるのである。
笑ってしまう程単純で、何度痛い目にあっても懲りない進歩のない少年は、そのまま身体だけ大きくなってしまった。



肝心の三面川の近況であるが、サクラマスの川として開いて3年目を迎える今年、解禁当初から近年まれに見る不漁でほとんどの人がノーヒットのまま、今シーズンここまで進んでいる。

 豪雪のため遡上が遅れているのか?
 それともこのまま不調で終わってしまうのか?

期待と不安が錯綜している。


夕方、暗くなる直前に到着すると先に三面入りしている仲間達にいきなり、聖水での歓迎をうける。釣友の手には新潟の銘酒、村上市の「〆張鶴 本醸造」がぶら下がっている。
もちろん既に抜栓済みである。

「待ちくたびれて、人格が変わりそうだ。」

仲間の声が響く。ドカドカっと私のキャンパーに4人がなだれ込み早速、作戦会議と同時進行の恒例となった前夜祭の始まりだ。我が師の、則弘祐氏の評によると「村上の〆張鶴はキレが有って、ほのかな優しい吟香が素晴らしい。数ある銘酒の中でも最愛の一本の一つに入る。」と最上級の褒め言葉が続く。


今日の食担は私だ。主役は飛騨の放し飼いの地鶏(ミミズとか虫食ってるやつ)、それも旨いひね鶏(年をとった鶏)だ。若鶏は柔らかいけど、こくがない。ひね鶏は適度な肉の歯ごたえと皮のコリコリ感がたまらない食感をバランスよく備えている。何よりもその肉汁のジューシーさと甘みと香ばしい香りは、野生のキジや山鳥を連想させるほど野性的である。若鶏とひね鶏、どっちが好き?と聞かれれば迷いなく後者を選ぶ。
飛騨の宮川朝市で手に入れた田舎味噌をベースに、黒糖やニンニク、唐辛子を加えたピリ辛のたれが最高に肉汁とからんでいる。香ばしく焦げ目が付いて食べ頃だ。旨味と香ばしさが支配する舌の上を優しく〆張が広がってゆく。あー幸せ、舌も心もとろけてゆく。


1升ビンの中身が見る見る蒸発して行くにつれ、仲間の声も一段大きくなり、笑い声でキャンパーが揺れている。汗ばむほど、熱気の上がったキャンパーからふと外に出てみる。雲のまにまに星が覗き始めた。

「間違いない、明日はXデイだ!」

身震いするほど勇気が湧いてきた。
「おーい、ヒデ! ワインちょうだいワイン。」
キャンパーから上機嫌に大声が響く。
「はいはい、唯今持ってきますよ。」


車に戻ると、則さんが

 「おいヒデ、明日はさ……。何となくさ……。釣れる気がするんだよ。」

ここに、元祖スーパーポジティブな大人の少年がいることに気が付いた。
明日への期待がボルテージを上げ続け、キャンパーを爆破するかのような前夜祭は終わるともなく盛り上がってゆくのであった。


田中 秀人






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