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SAURUS > エッセイ > 田中秀人 > 2009年6月 米代川サクラマス解禁
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Tokyo Rod & Gun Club
田中 秀人
ESSAY: Top Notch


ESSAY TITLE




長い葦原を掻き分け、川岸に辿り着くと冷たい雨がしとしと降り始めた。
時を待たずして激しくなり、暗闇に立つ2人を排除しようと容赦なく打ちつけて行く。
川岸の柳から追い討ちをかけるように、ゾサッッッッ ゾサッッと時折たまった雨だれの塊が僕らの体の熱を容赦なく奪っていく。
岸際から蒸れた葦のにおいが全身にからみつく。ペンライトだけがさまよう中で、僕らの体は早くも冷え切って行くのだった。


6月1日 まだ未明の午前2時30分。
秋田、米代川の解禁に震えながら対峙して、時の訪れるのをひたすら耐えて待つ。対岸でも下流でもライトがチラッッ チラッッと漁火のように瞬く。
やはりサクラマスはすごい人気なんだ。
近年、益々高まってゆくサクラマス人気に、待ちきれない心をあらためて煽られてしまう。


この米代川で思った場所を解禁日に確保しようと思えば未明2時半では遅いくらいなのだ。
「この対岸下流、岩盤の超実績ポイントでは、数人で3日前から場所取りをしているんですよ。」そう、隣で寒さに震えているザウルスの粕谷くんが呟く。


1時間以上川岸に立ち続け、少し雨が弱くなると同時に白々と夜が明け始めた。
早い朝を待ちきれず小鳥たちのチチッッ チチッッという囁きが喜びの幕開けを告げたのだった。深く緑が幾層にも重なり、今まさに萌え盛っている。
人も川も命を受けた者全てが抱きかかえられ、生きる力に満ち溢れている。
命の喜びを今、全力でふりまいているんだ。
雨に濡れた深緑はさらに輝きを増して僕の心を圧倒的に支配し押さえ込んでゆく。腰深くまで歩を進めると、雨で水温が下がった重い流れが一気に全身を飲み込もうとする。


遠征出発前日、飛騨での出来事だった。
「とにかく、体を冷やさないように。無理な運動は避けて食生活には気を付けるように。アルコールも控えめに。」・・・。白衣をまとった初老の医師が諭すように僕に語りかけている。
腰にコルセット、足首とヒザにサポーター。
(明日から東北に出かけます。川につかるので体は冷えるし、お祭りだから前夜祭は思いっきり飲むでしょう・・・。)なんて診察してくれた医師に真実を告げられず、自虐的に体を冷水に浸している。
今年5月の半分は足腰の不調で足を引きずり、釣りどころではなくてリタイヤしていたのに、懲りずに医師の忠告を無視して今このスタート地点に立っている。
なんせ秋田のサクラマス解禁なんだから。


もうすぐスタートフィッシング。
まだ薄暗い中、下流のアングラーの空気を切る音が響く「ビュッッ!」
しばらく、規則的なリズムを耳にしながら粕谷君と目を合わせさらに一歩腰までつかり、完全に明るくなってから僕らも風を切った。

「ビシュッッ!」


再び雨が激しくなったが、僕らの体は当然徐々に上気しはじめてくる。
僕らは人間機関車なのか。
鼻から蒸気が出てるんじゃないだろうか?


瀬が鉄橋にぶつかり、かけ上がりから開きに繋がる絶好のポイント。僕は鉄橋のすぐ下、粕谷君はそのすぐ下流に立つ。
さらに下流にもずらりとアングラーが並ぶ。
「ヒットし始めるなら、開きのほうからかな?僕らのところはしばらく時間がたって完全に日が上がってからだろうね・・・。」
20歳近くも年が離れた釣友に目をやり、声をかける。


その予想は良いほうに裏切られることになる。
夜がようやく明けてぶ厚い雲に覆われた光量のすくない川面で、いきなり衝撃が走ったのだ。
ズドッッ! ギンギン ギューン! グデングリン!
水中で青白く塊がのた打ち回り、ドバドバッッ!!と水面を割った。
「よっしゃー!ヒットー!」雄叫びが解禁を告げる。
ベイトキャスター71クイックトゥイッチンが激しくのがれようとする銀鱗に合わせて不規則なリズムで大きく振れている。一発目の幸運は僕に訪れた。
相棒には、僕のサクラマス釣りにおけるメインウェポンのCDレックス 8.5cm。


激しいファイト、可憐にそして激しく瞬く銀白の塊。
「おーっっ!これなのだ。
みんなが虜になってしまう理由は、これなのだ!」


じっくりかみしめながら、場荒れさせないように、多少強引に一発でネットイン!
まだ光量の少ない午前4時半に一つ目の勝負が付いた。
オリーブバックに銀白の魚体。その銀鱗は角度を変えると赤紫、青紫、赤、青、グリーン・・・。
万華鏡のようにさまざまな光沢を発して、触れた釣り師の心を一瞬にして虜にしてしまう。「なんて美しいんだ・・・。大河を支配するオーブ(The ORB=宝玉)だ。」
ポカーンとしばらく、愛しいサクラマスに見とれてしまった。この魚体に触れられるならば、遠路など苦でも無く、その瞬間に全てが報われるのであった。



「さー始まりだ!次はどこで出るんだ?!」
いやがおうにも期待のボルテージは最高潮に達している。いつもの薄っすらと婚姻色の出た、絞られた魚体の夏マスとは異なるその勇姿。
銀白で分厚い体はそのパワーを物語る。
フレッシュとまでは言わないが、最近遡上したと思われるこの光沢。米代マスとしては大型と言える62cmがその手に収まった。
体の震えも寒さからでなく、悦からの震えに知らず知らず変わっていた。


「よーし!まだ出るぞ。」
撮影は後にしてストリンガーにつなぎ、すぐにまた腰まで浸かる。
次の一発は僕らの下流の橋より下で激光した。そしてその次は、なんと僕らの上流の瀬でがやがや大声がする。


僕らは思わず叫んだ。
「開きじゃなくて、もう瀬に突っ込んだの!」
驚きながら見つめる先のアングラーは、東北ザウルス仲間の大地くん。ランディングをアシストしたのが東北ザウルスのボス 西村さんだ。
「やったー!!!うおーっっ!」大声が早朝の川岸に木霊する。
後から確認したのだが、これもまたギンピカで太くてミゴトな55cmの米代マス。長さに見合わずものすごい幅と厚みだった。これも夏マスではなく、グラマラスな魚体である。


「もう上行っちゃったの?」少しあせりを見せる粕谷君。
「だいじょうぶ だいじょうぶ!」諭すように彼に語り掛ける。
この男、おっとりとしなやかな様でいて、反面は獣のような・・・、いやハイエナのような魚を探す嗅覚を持っている。この場所も粕谷君が決断して選び、西村さんと大地君も呼んだ粕谷チョイスであった。


もうすでに僕に1本、下流で1本、そして今しがた大地君がゲットしたが、さらに下流にずらりと並んだ、開きに立つ軍団には何事も起きていない。
僕らが核心部に立っている。そう実感しはじめたその時。

「き 来ました!!」
この若者が絶対的に信用しているレックスMD 9cmを激しくサクラマスが襲った。



ジーッッ!ジジッッ! ドラッグが出てゆく音とともに銀鱗が下に向かったが、粕谷君はしなやかにロッドを逆方向に倒して一発で魚の頭をこちらに向ける。
ファイトに派手さは無いが、無理なく無駄なくマスを寄せてくる。柳のようにしなやかな彼のファイトは理想的だ。
そして1発でネットイン!これもまたギンギンの50cm米代マスだ!


本当にコンディションがよいサクラマスが連発して驚いている。
なんだかの理由で遡上がいつもの年より遅かったのだろうか?その後対岸でも1本、下流の岩盤帯では3日前から場所取りしていたグループが連発している。ぼちぼち情報が入り始めるのだが、川全体は絶不調のようだ。あまり釣れていないとの連絡ばかり。
やはり僕らが核心部分に立っているんだ。
不調の米代川はこのあと午前8時以降は全く沈黙することになる。まさに一瞬のプライムタイムを僕らは物にした。この状況の中で会心の釣果を得たのだ。


日がすっかり上がった川原にて、ヒデ、粕谷君、大地君が3本のサクラマスを抱えて、写真撮影大会が始まった。
カメラマンは東北ザウルスの ボス 西村さん。
「西村さんのマスも撮りますよ。入ってくださいよ。」
「オレのはいいよ、パーマークのないヤマメだからさ・・。」
実は西村さんも一本、超小型のサクラマスをゲットしているのだが、本人曰く(グリルス?ヤマメ?)と遠慮しているのだ。
サイズではない。この貴重な出会いを4人で入って4人とも1本ずつ獲ったことに、大きな意味があるのだ。この状況で、4人で入川して4本のサクラマスは歓喜の釣果だといえる。
皆さんお見事ですぞ!


さてさて、写真大会を終えマスたちをシッカリ回復させて流れに帰した僕ら4人組。その夜、東北ザウルス仲間の一部は西村さんのサクラマスを、
「あれは間違いなくヤマメだ!ノーカウント!ノーーーカウント!」
と声を大にして叫んでいた。格好の酒の肴(酒の魚?)になってしまった。


東北の仲間が持ってきてくれた三陸海岸の美祭(海の幸)。天然のホヤ、ウニ(牛乳瓶に入った生うにの塩水漬け!悶絶!)、ホタテに・・・・、そしてメインの肴は、キャッチ&リリースした米代のサクラマスたちの“話し”(特に西村さんのジャックか?!)。
それを受けとめる、酸の立ったオージー産のソービニヨンブランは濡れた草むらのような香草の香りをふりまき、さわやかな季節も肴も熱い仲間たちも全てを受けとめ、宴をエレガントに演出してくれるのであった。


西村さん!ジャックだけどあの魚はサクラマスだと僕は思いますよ。
黒い胸鰭はサクラマスの証です。


川端の宴は尽きることなく続き、仲間の笑いのボルテージは最高潮に達し、果てしなくボリュームを上げ続けていった。
ふと群れを離れて曇り空を見上げた僕の背後から、
「ヒデ、お前なに足引きずってんだよ。」
師匠の則さんが声をかけてくれた事に気が付き、足腰に激痛が走っている事実にようやくここで気がついたのであった。
(痛みよりサクラマスの喜び・・・か?)
全くもって原始的な精神と肉体の構造を持つ自分自身に対し、自嘲と苦笑が込み上げてきた。ジーッと周りに目をやると遠くの山並みの上に雲の切れ目が目に入り、星が遠慮がちに瞬き始めた。


明日も良い日になるだろうか・・・。
尽きることの無い、仲間の笑顔と笑い声。夜明けの打ちのめす寒風と身を刺す冷たい雨からうって変わり、雨上がりのさわやかな風が、寒さも痛みも忘れさせてくれる。
柔らかくそして優しく僕らのキャンプを最後まで抱擁してゆくのであった。


「米代川よ!また来年もお世話になりますぞ。」
友に感謝し、この喜びを皆と共有できる幸せにどっぷり浸っている。一瞬の間も置かず、米代川の重い流れとそれを抱える山並みが絶対的な塊としてどっしりと押し寄せてくる。
そして僕は全てに身をまかせ大きく深呼吸して、又来年の米代川 詣を誓うのであった・・・。

FOREVER! YONESHIRO Riv.


田中 秀人





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