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SAURUS > エッセイ > 田中秀人 > 庄川ザクラは咲いたのかい?
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Tokyo Rod & Gun Club
田中 秀人
ESSAY: Top Notch


ESSAY TITLE



白山からの吹き下ろしだろうか、立山からの巻き下ろしだろうか。 午前中南から吹き下ろした山風が午後からは海からの北風に変った。
止まることなく、複雑に吹き乱れる晩春の風に、釣り人も木々も身を任せる。
なぜか優しく柔らかく、安らぎを覚える。



ようやく新芽が芽吹き始めた川岸の木々や、一冬豪雪に踏み倒された水際の葦も風に乱れる。
そしてその勢いにも負けず一歩一歩と春を向かえたその盛り場では、ヒバリが甲高く、さらに高く雲まで伸び上がり、キジはケーン ケーンと白山連峰にまで響けと詠い出す。
目覚めたばかりの若芽が萌えると、いまや遅しとパートナーを求めて競い合ってオスたちが高らかに鳴き出すのだ。
全てのパワーが今まさに萌え出そうと競い合っている。
「雑木林に若芽が萌えりゃ、わたしゃ鳴き出す ケーン ケーン」
ザウルスのキジは鳴いたのかい?



ここは富山平野に注ぐ、富山県 庄川の河川敷。
日本のあちらこちらにありそうな、幾つもの里川の流れを集めて、木々も動物たちも、そして川の中も大運動会のように力がみなぎっている。

キジの長唄に誘われて海からは天然のアユが遡上を始める。
桜木も咲き誇るこの爽風に促がされて、サクラマスが今この川を遡ってきた。
サクラが咲く頃に遡上のピークを迎えるからサクラマスと一説に言われるが、その名の通りこの季節に、ここ北陸の銘川「庄川」に主役が帰ってきたのだ。


この川のサクラマスの解禁は4月1日。
オープンと同時に遡上の最盛期を迎えている。庄川は入漁券さえ入手すれば、誰でもサクラマスが狙える。
隣の神通川や新潟の河川のように、クジ運に頼る必要がないのがうれしい。
男性的な神通川に対して、石は小ぶりで神通川の女房のように優しく、しかし重い流れだ。
雪代にふくよかに包まれるように、優しい気分に浸ってゆく。
雪解けと多雨の高水位で、僕の大好きなトロ瀬もかけ上がりも生唾ゴックン状態を保って太く海まで注いでいる。


解禁日に1本、先週2本かけて一本獲った。
僕にとって、諸事情でスタートが遅れたシーズンだったが、この4月に来て、運よくサクラマスに出逢い、一気に気分が高まってきた。
3回目の釣行の今日は、この河原のように清清しく、珍しく落ち着いて辺りを見まわすことが出来る自分が居る。いつもは焦ってばかりだが、急がず見渡せる事だけで喜びが込み上げてくる。
「ありがたいね・・・。」
なんだか今日も可能性がありそうな気がする。


今年の庄川はどうなの?
皆の気になるところだが、豪雪と4月の記録的な雨量でたっぷりと水量があり、一気にサクラマスの遡上を促がしているようだ。魚のストックも申し分ないだろう。
例年は田んぼの水取りに合わせて水量がガクッと減ってしまい、4月終盤にはシーズン終了なんてことも続いたが、この水量だから今年は少し長く楽しめそうだ。
確かに常連は「水が多くて釣りにくい。」と渋い顔をしているが、渇水して釣りにならないよりは、遥かに好条件でチャンスは多い。



解禁の喧騒も一段落して、落ち着いて釣りができるこのタイミング。
2010年 4月26日 月曜日 ゴールデンウイーク前のこの穏やかな一日に、忘れられない最高の時(プライムタイム)を経験したのであった。


今日も朝一は、一番お気に入りの大門地区のトロ瀬に入る。
水量は多く押しは強い。
開きの重い流れに、強くCDレックスが食い込んでゆく。太い流れ、大河でのロングキャスト、強い抵抗の中CDレックスを細かく動かして出し入れしたい。そのために今日はプロトの(80トゥイッチン ベイトキャスター)を選んでいる。
Ty-レックス11cmやMed DEEP 9cmも強く激しく重い瀬でアクションさせられる、ファーストテーパーの8Ft.ロングロッドが必用なのだ。
瀬に付く大河のサクラマスにはベイトキャスター ブラザーズにトゥイッチン ベイトを加えたい。
現場からの願いで開発が進んでいる。きっと来年はこのシャフトがデビューしてくれると、心から欲しているのであります。


川底にシッカリと踏ん張る。
送り込んで核心の位置で強く細かくアクションを入れてやる。
「ビッシッッ!ビッシッッ!」
シュルッッ シュルッッと小気味良く気持ちの良い音を奏でてくれる相棒のアンバサダー。ロッドとリールの合奏が長く響き合い、今日は何事も起こらず時だけが過ぎていく。


昨日は富山の釣友 アンクルスミオこと黒田君から上流域のホットスポットの情報ももらっている。
先日から何度か偵察には行っては見たが、増水で解禁以来ずっと上流域は潰れ気味だ。それでもポツポツと上でも釣れているようだ。
地元の情報では「釣果は下流域に集中している。上流域にはサクラは行っていない。釣れているのは最上流でも南郷大橋の下辺りまでだよ。」と囁かれている。
しかし実のところは釣りにくいだけで絶対サクラは上まで遡っていると目をつけているんだ。「水が引けばチャンスがある。引き際が狙い目だ!」ってね。
そう上手く行くかどうかは判らないけれど、なんだか釣れそうな気がする。そのタイミング(プライムタイム)を虎視眈々と狙っている。



下流域のトロ瀬にて、ワンキャスト ツー ステップダウンで広く探っている。
いつ来てもおかしくないが、朝から反応がない。
いつもバコバコに釣れるほどサクラマス釣りは甘くない。だからこそ、余計に熱くなるんだ。


一心不乱に瀬に対峙していると、僕の後方に見慣れた軽トラックが近づいてきた。先日、河原で知り合いになった、還暦前後と思われるハンターだ。
そのオヤジが猟犬のポインターの若犬を連れて近づいてきた。
禁猟期間のこの時期に毎日、河川敷に出て猟犬のトレーニングをしている。
「まだまだ遊びたいだけで、放すとすっ飛んでいって腹が減るまで帰ってこないんだ・・。」
ぶつぶつ文句を言いながらも毎日、根気良く若犬をここに連れてくる。猟犬を一人前にするということは根気との睨めっこなんだ。
(親父の言うことを聞くと、いいところに連れてって貰えるって、相棒が思ってくれるまでね。そうなると猟も上手くいくんだな、これが。)
僕もそうやって自分の愛犬セッターとラブラドールを猟犬として一人前にしてきたから、このオヤジの苦労が良くわかる。親父たちを横目に、早く放せとポインターがリードを猛然と引っ張っている。


少しロッドを休めて、ハンターと猟の話や犬のトレーニングの話、山や川や成り物(農作物や山の幸)の話に興じる。
僕もハンター。こうした同志との話はついついのめり込んでしまう。


「そろそろ田んぼに水を張り始めたな。コシヒカリやなんかは田植えがもっと後なんだが、早稲品種はもう田植えが始まる。今日も田んぼに水を引くよ。・・・・」
ハンターはここぞとばかりに次々と色んなことを話しかけてくる。
結構おしゃべり好きのオヤジさんだ。

しかし僕はオヤジをよそに「水を引くよ・・。」との言葉にガッツリ反応してしまった。
(田んぼに水を引く!?・・・・水量が減って水位が落ちる!・・・潰れていたあの瀬が現れる!!・・・)
しゃべくりまくる叔父さんを薄く意識しながら相槌を適当に打ち、でも僕の意識はもう上流に飛んでいる。



「10時位からさらに水が落ちるよ。上流のダムの放水も午前中で絞るって言ってたからな・・・。」
「な 何いーっっ!!」
ハンターの声は、小さく遠くでテレビの音がなびくように響いている。でもダムの放水が減る話だけは、そして水位が下がる話だけは、ガッツリと聞き逃さなかった。

さすが地元の叔父さんだ!ハンターだ!山の男だ!大河の男だ!
富山の人はいい人だーっっ!


ふと川を振り返ると、今しがたまで水の中だった川石が姿を現し濡れている。
さっきまで水中に潜んでいた川底が水が引いて露になり、泥がねっとりと黒く湿っているではないか。
ヒザまでウエーディングしていた輩が振り返ってみたら、今はヒザ小僧が水面から出ているぞ。 「さ 下がった!」

まだまだ話し足りないハンターに会釈をすると一目散に上流を目指した。
おじさんゴメン。
何があったのか理解できないまま取り残された、オヤジさん。失礼しました。


地元で釣れていると情報が流れている区間のさらに上流の(アンクルスミオ レコメンド エリア)に一直線。

ポイントに着く。見事なトロ瀬が、絶好の水量と水勢で目の前に広がっている。
10℃の水温時にサクラマスは、まさにこのくらいの速さの流れに入ると言うお手本のようなトロ瀬だ。


瀬の開きを覗くと、ワカアユがピッッピッッ!と水面から飛び出して逃げ回っている。
その後方からギラッッ!と銀塊がアユを襲った。
銜えて首を振る。すぐにアユを口から放すと、サクラ吹雪が舞い散るようにワカアユのウロコが瀬の中に散っていった。まるで舞い落ちる蝶の銀羽骨粉のように美しい。



はかなき美しさを楽しむ余裕もなく、僕の胸は一気に高鳴り、禁断の秘密の宴を覗いてしまった小僧となってしまった。この宴は大人すぎて、小僧には刺激が強すぎる。

覗き見した小僧はドキドキする胸を押さえながら、すぐに絶対的相棒のCDレックス 8.5 銀アユを結ぶ。
「アユいじめてんだから、アユだろうが!」当然の選択で、今まさに銀塊がワカアユを襲ったコースをアユカラーで丁寧にトレースする。絶対一発で喰うはずだ!


キラッッ キラッッ!フラシングしながらCDレックスが流れをクロスする。一瞬 銀塊がミノーを追った。 ギラッッ!

でも1メートル追尾して、納まってしまった。
もう一度・・。
今度は一瞬追っただけ。
次は・・・
もう反応しない・・・・。

どうして???


散々アユをいじめたから、気持ちが落ち着いちゃったの?
あれは餌としてアユを喰ってるんじゃなくて、サクラマスが意地悪だから、アユをいじめているんだと思う。
やるだけやって気が済んで、本物は追うけどルアーは見切る?

アクションを激しくするのか、はたまたサイズダウンなのか?しかし方向を切り替えて、思い切って反対色を選ぶことにした。アユで駄目なら派手なカラーでイライラさせようと作戦を切り替えることにした。


結んだのはCDレックス8.5のアクアマリン。
アユの時期にはあまり使わなくなる雪代を意識した派手なカラーだ。

着水する・・・アクションを加えてから送り込む・・・核心の部分でアクションを加える。
怒り狂ったのか、後方からものすごいスピードで追尾して突っかけた。
でも乗らない。
小僧の心臓がはち切れ、頭に血が上る。


「落ち着け・・・。」
もう一度同じコースを通す。

そして襲ってきたあの場所で、ベイトリールのクラッチを切って、30cmさらに送り込んだ。勇気の必要なアクションだがこのアクションで何度も喰わないマスに口を使わせた経験がある。



30cm送り込まれて、5cmさらに沈んだCDレックスを閃光が襲った。
「カツン・・。」石に触れたようなかすかな当たりだ。この水深とルアーの位置で障害物に触れるわけがない。間違いなく前当たりだ。
ここで合わせると乗らない。何度もこの合わせに失敗した。慌ててはいけないのだ。スプールはまだフリー。ロッドティップを下げて一瞬だけ喰いこませて、クラッチを戻して、それからガツンと一発合わせをくれてやる。
このアクションはベイトリールでしか出来ない方法だ。


ドシッッ!!!
重みがボロンシャフトに乗った。

「よっしゃー、乗ったぞ!」
失敗に失敗を繰り返して、つかんだクラッチフリーの送り込みメソッドでバッチリ サクラマスをCDレックスに乗せた。

「グングングン!グリングリン グン!」
あの特有のローリングアクションがゴンゴンに手元に伝わってくる。


80トゥイッチン ベイトのハードバットが重い瀬のファイトを押さえ込み、サクラマスに主導権を与えない。

このアクションでは、ほぼ100%リアフックを喰ってくる。激しいファイトの中にも、より慎重なやり取りが必用だ。無理せずロッドのパワーを生かして、スムーズにランディングに持ち込んだ。

立派な62cmの北陸の砲弾。
市川 海老蔵のような目力のグラマラスな庄川ザクラが咲いた。横たわり、ビックリしている。

まだ居る!
まだ騒いでいる!


ゴン!
ガツン!
CDレックス8.5 ライムチャートPM-OB、次はスパシン6cm ピンクバックOB、とローテーションを加え、なんと3本のサクラマスをプライムタイムに独り占めしてしまった。

河原を見渡すが、人っ子一人居ない。下に見える橋から次の上流の橋まで2km以上、誰も居ない。こんなことも、長くやっていると有るものなのか。



葦は冬枯れても、豪雪に押しつぶされても、滅びることは無い。地中で根が生きている。
春になって、サクラマスが瀬にさしてくると、枯れた葦の根元から新しい息吹が聞こえてくる。葦の新芽が重い土を押しのけ天に向かって背伸びをする。ギシギシと音を立てながら背伸びをする葦の若芽の音がする。
そんな季節に銀塊が瀬の中で動き出すんだ。葦の若芽を見つけたら、水温が10℃になってマスが動く。
アグレッシブな瀬の中のファイトの幕開けを告げる。僕にとって葦の命の再生は、マス釣りにおいての目安箱になっている。


歌舞伎役者のような62cm
観念して穏やかな目つきの58cm
気が強そうで、やんちゃな54cm
1本1本出逢いが有り1本1本顔つきもファイトも個性的だ。同じ川の隣り合ったポイントで、同じ時間帯に手にしたターゲットなのに、これほど一匹一匹違う表情を見せてくれる個性もまた、サクラマスたる由縁なんだ。
これがサクラマスに惹かれて止まない理由の一つにほかならない。


一生に一度のこの一本との出逢い。
同じサクラマスをもう一度釣ることは決して無い。だから又、愛おしくはかない。

何本釣ったかではなく、どう釣ったのか、どう出逢ったのか。
納得の一本を目指して、又あの本流を目指す。

飛騨の源流を通り抜け、世界遺産である白川郷、五箇山の合掌集落を急ぎ、山間をすり抜け全力で走りぬけて日本海に注ぐ 北陸の大河 「庄川」。
北陸の市街の中を悠然と突きぬけ、あの至宝のサクラマスが又、遡ってくる。


サクラマスの眼光が輝き、その中に飛騨から日本海までの営みが溶け込んでゆく。僕もその中に浸み込むように溶け込んでいった。

この川で出合えてよかった。
このマスたちに出会えて心が震えた。
こんな事がもう一度あるとは思えない、こうした、生涯記憶に残る大切な一日。





上流を目指し、帰路につくと残雪の山並みとまだまだ納まりそうにない、上流の雪代が押し寄せてきた。
圧倒的なパワーがあのマスたちを呼び覚ます。
日本海~富山~飛騨。
命の繋がりの中に、日本のマス。晩春の息吹の彼方に、(サクラマスの囁きを感じた)。


ザウルスのキジは鳴いたのかい?
「雑木林に若芽が萌えりゃ、わたしゃ鳴き出す ケーン ケーン。」


田中 秀人





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