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Tokyo Rod & Gun Club
田中 秀人
ESSAY: Top Notch


ESSAY TITLE



今年の夏が過ぎ去ろうとしている。
とても長い夏・・・・特異な夏・・・・

アスファルトの高熱が陽炎を呼び覚まし、滴り落ちる汗が目に入っても、
拭うことさえ忘れ、徐々にかすれてついには何も見えなくなってしまった。
苦しく重く押さえ込まれるこの猛暑に焼き尽くされてしまったあの酷な夏を、未だどうしても越えられないでいる。





川岸には水辺ギリギリまで緑の草原が迫りせり出している。
先端が今にも水面に触れそうだ。
葦の一群との勢力争いを繰り広げている。
虫たちはキリギリスからクサヒバリ(コオロギの一種、ヒバリのようにピロピロピロピロと切なく唄っている。)へと命のリレーを果たし、賑やかな川辺が夏から秋に変るその風に
優しくなだめられるように足音も立てず知らぬ間にリセットされてゆく。


昨年来、どうも僕の運気は流れが良くない。
気持ちがどうも盛り上がってこない。
頑張ろう頑張ろうと思う都度に、力が何かに飲み込まれる。
負の連鎖が止まらない・・・・。
ダメ押しに則 弘祐 師匠を失った。
そして同時に言葉をも失った。


あれほどまでに焼き尽くしてしまった酷暑の夏。
生涯忘れえぬ、追憶の日々と句読点が打たれたその夏の苦過ぎる出来事。



川岸の草原にひときわ大きな石が横たわる・・・
ディレクターズ チェアーの様に程よく変形したその石が
「まあ休めよ・・・・」と語りかけてくれる。
吸い込まれるようにロッドを置いて腰を下ろす。


ため息を一つつくと、そのまま瞼を閉じた。
チェアーの形そのままに体を預けると、自然と空が飛び込んで来た。
力なく腰抜けたままその空を見上げると、あの時の入道雲が天高く千切れて、はぐれ雲へと姿を移していた。

激しく駆け抜けたオニヤンマの姿はもうどこにも無い。
その代わりに、まだ完全に色づいていないアキアカネがゆっくりと頭の上を過ぎ去ってゆくだけだ。


「こんな事ではいけない。こんな愚図愚図している弟子を見たら師はなんと思うか・・。」則さんはいじけたヤツや女々しい男は大嫌いだった。
いつも前を向いたスーパーポジティブな大人の少年だった。
則さんに怒鳴られるぞと意を決し、師の49日法要を越えたら再びロッドを手にすると決めたのだ。



1ヵ月半ぶりに川辺に戻っている。
「何をやってんだヒデ。お前なんか帰れ!もうやめちまえ。」師の怒号が聞こえる・・・。
川に立てば力が湧いてくると思ったのに、心に鞭を入れようとすればするほど力が抜けてゆく。僕には釣りしか無いんだ。焦れば焦るほど・・・それでもどうにもならない。
1時間もしないうちに、気持ちが折れてしまい、水を見ることすら出来ない。
こんな事を何日も繰り返してしまった。
息苦しくて立っていられなくなった。
あふれ出る想いが、もう止められない。


そんな時だった、僕の手の平にふと一匹のクサキリ(キリギリスの一種)が飛びついた。
目が合ったその瞬間、間髪おかずジャンプして川岸ギリギリの草に飛び移り勢い余って落っこちそうになってぶら下がっている。
「まだクサキリがいるのか・・・・危なっかしいな・・・」ヤジロベーのように揺れ動く・・・夏の虫から秋の虫へ・・・
ぼんやり見つめたそのすぐ先に、クサキリは必死で掴んでいた草の先端から万事力尽きて落下した。そして複雑に流れ絡まる水際へと体をとられてしまったのだった。
激しくもがくクサキリ・・・・無心で見つめている。



とその時「バシャッッッ!!ドバッッ!!」
流れのインセクト イーターが、もがくクサキリを一呑みにして一瞬にして奥彼方に帰っていったのだ。
「アッッ!!」忽然と現れて消え去ったグリーンバック。


ここは南飛騨の益田川(飛騨川水系)。
北アルプス南乗鞍の流れと御岳の流れを集め飛騨川、木曽川と名前を変えながら太平洋へと注ぐ。山がひだのように帯び重なるので飛騨と名付けられたと伝え聞く。
その名のごとく、山ひだ毎に細い流れが集まって谷となし、川となる。
その源流は幽霊されてこの上なく険しく、里に下りると優しい一面を見せるが、さらに下って本流となると国定公園の中山七里をすり抜け、激しい岩肌をむき出しにする奇岩の川へと変化してゆく。ある種不思議な渓相を見せてくれる、無双の川だ


日本海へと注ぐ雄、宮川水系は9月の10日で早い禁漁期間に入るので、南飛騨の河川は飛騨人にとってその後も長くトラウトを狙うことが出来る貴重な河川群なのだ。
9月中盤から終わりにかけて南飛騨の河川に出かける。
両岸が草原に覆いつくされたボサ川区間でワイルド化したインセクト イーターのレインボーを虫パターン プラッギンで狙うのだ。
レインボーが自然産卵しているわけではないけれど、漁協がかなり力を入れてレインボーを放流している。うれしい漁協の努力でなかなか魚影は濃い。野生化した凄いやつもたくさん生息しているのだ。



10年以上前から試行錯誤してきた。その結果今では夏~秋のボサ際テレストリアル パターンを掴んで、ビッグレインボーを狙って毎年獲ることが出来るようになった。
アマゴ・イワナ禁漁後(9月末日で終了。南飛騨水系はアマゴとヤマトイワナの生息域だという、貴重なフィールドでもある。)10月以降も鱒釣り大会が数回行なわれ、その後は残り鱒を狙って釣りをすることが出来る。10月でも11月でもこの漁協公認河川においてニジマスが狙える。

ただし、それらのニジマスは大会前まで池で泳いでいた養殖魚。
僕の狙いはそれではなく、稚魚放流されて大型化した個体や昨年の放流魚が越年してワイルド化したレインボーなのだ。だからその年の鱒釣り大会前に出かけて、9月にこの川のワイルド化したレインボーを狙うというわけなんだ。


レインボーが放流されていて、経年過ごして野生化する。ボサ際は虫が落ちて来やすいので落下物を意識し、必然とレインボーはインセクト イーター化する。
こうしたビッグレインボーが潜むボサ川は南飛騨だけでなく、全国津々浦々色んなところに存在するはずだ。皆さんにもぜひこうした川を見つけて、テレストリアル パターンで楽しんで頂きたい。
きっと貴方の想像以上のパラダイスがそこには待っているだろう。そう信じます。


「南飛騨のインセクト イーター」
レコメンド プラグは、ブラウニー5cmS ガンメタ、Ty-REX 5cmと7cm 虫カラー、プリラ黒、トラン7cm金系など。完全にテレストリアル パターン。
着水してラインスラックを取り、ドリフトさせてモゾモゾ・・・ドバッッ!!
水しぶきを上げてドカン!とトップで出るのだ。これがたまらない。
着水してチョンチョン・・・ほとんど3秒以内に結果が出る。


これだ!これなんだよ!
その後ラインドラッグがかかってリトリーブで喰う事もあるが、なるべく自然にドリフトさせてやる。 チョンチョン ドカン!!が最高だ、バイトが見える。



全てベイトキャスターでやる。投げることが楽しい(FUN TO CAST!)


プラグを送り込むために正確なキャスト、トップのアクション、ビッグワンとのやり取り・・・。


そしてなんと言ってもベイトリールは理屈無くカッコイイ。
アンバサダーは永遠にカッコイイ。
どれをとってもウルトラライトのベイトキャスターは完全無欠に楽しいのだ。


そのためには専用のシャフトがいる。欲しい道具があるが納得する物はいまだ無い。
だから必用なものは自分たちで作る。
これこそが現在開発中のプロト 56UL ベイトキャスターなのである。
軽いミノーをキャストするための瞬発力としなやかにプラグをアクションさせるULパラボリック。鞭のようビシッッ!とキャストし、美しくしなり、40cmオーバーのビッグトラウトをトルキーにいなすバットパワー。1gからキャストできるようにチューニングされたアンバサダーとのコンビがこのゲームを根底から支える。

(エリア用の最新ベイトリールも即戦力。でもね、美しいアンバサダーをいじって、意地でもそれを使いたくなるんだ。)
道具は美しくあるべきだと思う。
ザウルス ボロントラウトスピン ベイトキャスターもアンバサダーも圧倒的に美しい。
フィールドでの熟成を重ねて、いまや僕の片腕となり渓流のULベイトキャスター ゲームのマストアイテムへとさらに進化している。



そして又今日もこの川べりに立つ。
でもここに来てすら、釣りを忘れて座り込んでしまった情けない抜け殻がそこにあった。


そんな据え膳のご馳走を目の前にして、キャストすらまともに出来ない僕に、
ボサ際のインセクト イーターがいきなり激しくバチン!とビンタをかました。


一瞬にして目覚めた。「ウオッッ!!」
ふっと少年の顔に戻る・・・何も考えず何も迷わず、そして無心で川面に吸い込まれる。
「い、いるぞ。いるいる・・・。」ほら・・・胸がドキンドキンとやりだした。
襲われたのは約7cmのクサキリだ。黄色味がかった薄いグリーン。
迷わず目に入ったTy-REX 7cm チャートバックOBを結ぶ。


ビシッッ!56ULベイトキャスターが空を切る。
草際 ジャストにミノーが決まる。プラグがかすめて揺れる露草・・・。



チョンチョンチョン・・・ ド ドバーッッ!!

先ほどクサキリが吸い込まれた、同じ場所でもう一度水面が割れた。

「ほら 出たー!!よっしゃー!」
ジャーンプ!ジャンプ! 跳ぶ跳ぶレインボー!!


「チチチ・・・チチチ・・」
アンバサダー2601cのラインアラームが鳴る。
少しだけドラッグが出て、走り回るレインボーをしなやかなシャフトが受け止める。


晴れやかにファイトを堪能してネットイン。
草むらに上げないよう、大切に川岸で撮影する。優しくお礼を言って川に返す。
年を越え、幾多の針を逃れ今ここに横たわった40cmアップのワイルド化したレインボー。深緑に溶けて、濃いグリーンバックがこの川での生活史を物語る。


この一本で深淵の底から救われた・・・。



「いるぞいるぞ!!」


はるか天高く飛来するアキアカネのように昇って行った。
天を翔けるベイトキャスター。

復活いたしましたぞ!


そして、圧巻の50cmアップのフォレスト グリーンバック レインボーも手にする。
完全にあの一本が呼び覚ましてくれた。
ギリギリのファイト。
56ULベイトキャスターのポテンシャルとこのタックルでの限界と思える50オーバーのワイルド化したレインボー。


これが究極の狙いの一つだ。
プロトロッドに完全入魂を果たした。
今年の幕を閉じると同時に、このロッドのポテンシャルにさらなる自信を深めたのであった。



傾く夕日に照らされたベイトキャスター。
泳ぐ芸術、ヒラヒラと舞う花びらのように美しいブラウニートラン。


その脇には目を明けていられないほど神々しく、眩しいほどの彼岸花が咲き乱れていた。
その黄昏に、優しく清々と僕は抱きしめられた。


その時ふと脳裏によぎった事がある。

初めてザウルスのメディアで僕を紹介してくれた時の、あの時の則さんの一言。
スポーツザウルス時代のトップウォーター プラッガー「コッピ川」のビデオの中で・・・
ロシアなのになぜか・・・

いやはや恥ずかしいけど「宮川レインボーの天敵」と紹介されたヒデ。

(実際は70cmオーバーにやられまくっていたけどね・・・。天敵なんておこがましい。未だにまだまだヒヨッコですわ。)


「ビッグトラウトはベイトだ。スピニングを封印してベイトでやれ!」
それから、スピニングを封印した。
師の言葉を受けて、ベイトキャスターの道を選んだ。
いまや北海道のイトウから渓流のウルトラライトまで全てベイトキャスターで釣りをする。


この酷暑の夏を越えて、
「もう一度原点に回帰してベイトでレインボーを狙おう。」
そう誓った。




2001年、則さんとカムチャツカでスチールヘッド(降海型レインボー)を狙った。


師は89cmのオスのスチールヘッド(2002年 スポーツザウルス カタログの表紙。デカイ!撮影:田中秀人)

僕は76cmのメスのスチールヘッド。
(写真ではそんなに大きく見えないのがちょっと残念。でも凄かったよ彼女は)


その釣行の直前に僕は則さんから、1本のベイトロッドを授かった。
80トゥイッチン ベイト(グリーンスレッドのプロトロッド)

「ヒデ、これでやれ・・・。」
ここから全てが始まった。




釣行から帰ってほどなく、大切な想い出が送られてきた。


額装された紅潮したハナタレ小僧と究極のスチールへッドの写真。
そしてそこにはノリスのメッセージが込められていた。



 ロシア、カムチャツカ。
 ソパチナヤ川。
 01年十月上旬。
 気温マイナス10度C。
 果てしなく続く永久凍土の地平に
 キミは何を見たか。

 “スチールヘッド鱒一匹
         夢一生“

 則 弘祐








昨年、今年と2年かけて則さんは1本のロッドの開発に夢中になっていた。
まるで少年のように。


そのロッドが完成しリリースされるらしい。

2011年 ザウルストレイン ボロン トラウトスピン ベイトキャスター 80 トゥイッチン ベイト(ノリス シグネチャーモデル)


「原点回帰」
僕にとっても特別に、そして強烈な思い入れの有る 80トゥイッチン ベイト。
師の言葉を今一度かみしめる。
僕はその遺産を手にして、来シーズンもビッグトラウトを狙うだろう。
もう沈んではいられない。
ぶれない心で、このベイトキャスターを手にすると強く誓った。
更なるビッグレインボーを狙うと誓った。



「則さん!まだ始まったばかりですよ。」
聞こえますか?
旅はまだまだこれからも続いてゆきます。
はやく列車に乗り込んでください。はやく・・・
あなたが創造した ザウルス
そして列車が繋がってゆく トレイン。


あなたは僕にいつかこういいましたね。
「何故ザウルストレインと名付けたんですか?」尋ねた僕の問いかけに、
ノリスはその遥か彼方を見つめて、そしてゆっくり語りはじめたあの日の事。
「ザウルスが未来に向かって繋がってゆくようにとね・・・。色んなところにステーションがあって、そしてザウルスのトレインが連結して次々に繋がってゆく。そんな願いがこもっているんだよ。」ってさ。


さよならとは言いません。
「ありがとう 則さん。」・・・・・・・ぼくらは新たなる旅のスタートに立ちます。
見ていてください。あなたの旅もまだまだ続きます・・・

ヒデ
2010年10月

(続く)


田中 秀人





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