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SAURUS > エッセイ > 田中秀人 > 驚愕! 夢の巨大アマゴ。秋の巨大アマゴに近づく秘密が今明かされる
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Tokyo Rod & Gun Club
田中 秀人
ESSAY: Top Notch


ESSAY TITLE



「巨大アマゴへの憧れ」

2011年 飛騨の渓流最終章。
春に幕を開けた渓流のシーズンも9月30日でいよいよファイナルを迎える。
56ULベイトキャスターを手に、最後の休日 9月27日も、
あのアマゴの渓を目指す。
霊山 御岳の麓。
飛騨川水系、益田川、秋神川。そして支流群。
この流れは、僕にとって心の原点かもしれない。




僕の小学生時代。
芸術家にしてアル中で、しょっちゅう暴れまわっていた父。
徐々に父と川に行く事が少なくなり、夏休みになるとほぼ一か月この流れに疎開した。

「秋神川」とその支流「西洞谷」の合流点に「民宿 縣(あがた)」と言う宿が有る。
隣接して「食品スーパー新井商店」と「ガススタンド 日石 新井商店」
この3軒の主が新井 縣(あがた)氏。
この新井 縣 氏は僕の父の高校時代の同級生にして悪友。
良いことも悪いことも(割合1:9いや100%悪か?)共にした無二の親友である。

空き部屋を一つあてがってもらって、夏の数年間はここで過ごした。
この夏の疎開は5~6年続いただろうか…。
民宿のただ飯喰らって、さらに洗濯から借り部屋の掃除まで、新井の婆様が僕を可愛がってくれた。
内緒で僕には、早稲の新米をこっそり食べさせてくれたりした。
家族同然「ヒデ坊!ヒデ坊!」と呼んで可愛がってくれた。
昼も夜も風呂も、居候(いそうろう)が一人…。
朝は早朝の市場から戻った縣おじちゃんが、奥さんの和子おばちゃんと一緒に雑貨や食品の配達に出かける。
スーパー新井商店への注文の品をお客のところに届けるのだ。
近くの別荘地「スズラン高原」のお客さんは都会のリッチな別荘族。
毎年、避暑に訪れている。
田舎の山奥には似つかないような高級食材の配達も毎日のようにあった。
外国のキャンディーや、はたまた初めてその名すら耳にした夏柑のマーマレードなるもの(ただのマーマレードじゃなくて、夏蜜柑のマーマレードでなければ駄目とのご指定だった。)には驚いて、あの別荘にはどんな人がいるのだろう…と、興味より住む世界の違いに、お化け屋敷のような恐怖すら感じた。あの洋館の別荘にはドラキュラと監禁された美女が住んでいたのかもしれない。


その早朝の配達便に同乗する。
途中の流れで車から降ろしてもらって、僕の一日が始まる。
さながら「僕の夏休み」である。

前の晩に作戦会議を開く。
会議と言ってもメンバーは僕と、二万五千分の一の白地図と赤鉛筆。
秋神川周辺のすべての流れを順番に赤鉛筆で塗りつぶしながら、
全支流制覇を目指した。

エサ釣りで釣り上がった。
毛バリ釣り(テンカラ)で流れを叩いた。
腰には婆ちゃんのおにぎりと胡瓜の漬物。飲料はクマザサの葉っぱで谷の水。

ある滝壺で、テンカラをスローモーションのようにゆっくりと襲った、巨大岩魚の陰…。
見たこともない大きな岩魚にあわててしまい、しっかりと毛針を咥えるまえに早合わせ…
滝壺に消える巨大な影を追って、竿をおっぽりだして潜って追いかけて
泡のなかで見た巨大なシャベルのような尾鰭。

生涯初めて釣った尺アマゴ。
針から外して魚籠に入れようとしたらその手から、暴れて生涯最大の大物が逃げ出し、瀬の中に飛び込んで追いかけたびしょ濡れの子河童。
忘れられないあの握りきれないほど太かった大アマゴの手の平の感触。その時転倒して折ってしまったしまった、お年玉で買った大切なテンカラ竿を手に、大声をだして川原で悔しくてワンワン泣いたあの少年の一日。情けなくてしょぼくれて、ずぶ濡れのまま震えて林道を降りていった、冷めたいあの薄暮の森。

暑くて釣りにならない日にはキリギリスを捕まえ、夜になると電燈に集まるクワガタやカブトムシを獲った。

泣いて笑って、転んで怪我して、それでも誰にも邪魔されなかった、キラキラと輝いたあの夏の思い出。
がむしゃらに遊んで自然から大切な物を教わった、僕の夏休みの先生がこの川なんだ。

徹底的に歩き倒して隅々まで調べつくしたこの流れで釣りをすると、大きな優しい物に包まれ、とても気分が良くなる。
そして全てを教えてくれるその広大な自然の懐は、今なお命を繋いでいる。

この流れで、太古から命を繋ぐアマゴを見続けてきた。
だからこそ尺アマゴを狙う事、そして秋の巨大なアマゴを狙うことには、1本のビッグトラウト プラスαの深い思い入れがあるのだ。

特に秋の遡上物の巨大アマゴは最大級の難攻不落。ビッグトラウトの中でも孤高の存在。
少年が出会った、晩秋の禁漁期間のあの巨大アマゴ。
その産卵行動を見つめて、膝が震え、本当に寒かったのか恐ろしかったのか、物凄い衝撃を受けたあの出来事が今なお脳裏に強烈に焼き付いている。
あの出来事が、今もビッグトラウトに執着し続けている本当の理由なのかもしれない。

あれは遼遠く、夏休みの少年の相手になるような宝玉ではなかったのだ。
その夢は成人するまで、持ち越されることになる。
そして、この巨大なアマゴを手にするためのトライ&エラーが始まるのである。

長年狙って、簡単ではないがあの巨大アマゴに近づく方法が見えてきた。
10年以上もかかって、40cmオーバーのアマゴを手にした。
あれから、20年。それでも毎年コンスタントに釣れるような簡単なターゲットではない。

今ここで、この夏のケーススタディー、フィールドトライアル、本アマゴのエッセイを読み返していただければ、今回のターゲット、「秋に狙う本流差しの巨大アマゴ」の全体像が見えてくると思う。
今回の狙いは、隔離された本アマゴではなく本流でアユを喰って巨大化して9月の中旬頃支流に遡上する特大アマゴだ。
本流で大きくなる時期に銀化の強いこのタイプは、遡上と共に婚姻色を身に纏い、時にそのサイズは驚愕の40cmを超えて、まさかの夢!憧れのモンスターサイズにまで成長する。
特筆するのはこのターゲットがサツキマスでは無いこと。
海に降りるタイプ、湖、リザーバーで巨大化するタイプはサツキマス。
しかし、この流れのターゲットは紛れもない大アマゴなのだ。

今日のエリアはその下流域30Kmにわたりアユの好ポイントが続き、堰堤で遮られた区間が現れるとそれより下流とは遮断される。湖もリザーバーもこの区間には無い。
益田川上流には5つのリザーバーがあってその上流域には湖沼型サツキマスも遡上する。
しかし、このエリアはこのダム群の下流になるので、湖沼型サツキマスの遡上は無い。
サツキマスではなく正真正銘の流れで育った巨大アマゴを狙うのである。

・「愕然!巨大アマゴ 44cm! 奇跡の宝玉を手にする時…・」

飛騨地方の渓流釣りも、禁漁まであと数日。
禁漁前最後の休日、9月27日 火曜日にあの憧れの宝玉に出会った。

あの日の数日前。
9月の20~22日の間に、今月2個目の本州上陸台風がゆっくりと列島を過ぎていった。
高山本線JR運休。国道41号線通行止め。安房トンネル158号線通行止め。
東海北陸自動車道も通行止めとなり丸一日、飛騨地方は全ての交通手段が遮断されて
陸の孤島となった。
特に飛騨南部は下呂市の飛騨川が氾濫して、床下浸水のエリアも有った。
美濃地方に入ると飛騨川水系で避難勧告地域も多く有ったようだ。
さすがにこの大増水で飛騨川水系のすべてが、数日間釣りどころではなくなった。

しかし、この大増水が奇跡を起こしてくれるかもしれない。
秋の台風、大増水から水が落ち着くタイミングで何かが起こる。

台風一過から数日すると、最終盤の渓流から仲間の吉報が届き始めた。
最後の最後に良い思いをしたザウルス フレンズも笑顔で今シーズンを終えた。
この所、火曜定休のためチューズデー アングラーの僕は、大増水からの引き際のベストと思われる水量を見過ごしてしまい、そこから2~3日経過してしまった。
水は落ち着いてしまっただろうか…。
台風が飛騨に最接近してから6日目にあの流れを目指したのだった。

シーズン最後の狙いは、本流からの遡上タイプ、支流に差した尺上の大アマゴだ。
狙いは尺上、できれば婚姻色の35cmUPに出会えたら今シーズンの有終の美を飾ることが出来るだろう。

飛騨川支流に到着すると、上流のダムの放水が止まっていることにすぐ気付いた。
水は平水に戻り、台風一過のグッドコンディションは過ぎたのか…・
少し気落ちする。
釣行前に思っていたより当日の飛騨川は減水していて、平水より10cmくらい水が高い程度。
水量は落ち着いているが、水色は悪くない。
笹濁りと言うほどの濁度ではないが、まだほんの少し白い濁りが残っている。
このほんの少しの濁りに期待が膨らむ。
水量を考えて、最初入渓しようと思っていた地点より10Kmほど下流に向かう。

これは、なんとなくではなく、確信をもって下流に動いたのだ。
そのまま、最初に入渓を予定していたエリアで釣りを続けても貧果が目に見えている。
早々に見切って、いくつかの支流が合流し適度に水量が増すエリアまで移動する。

このエリアでよくチェックする橋の上から、双眼鏡ですぐ上流の淵を覗く…
「あれ、大アマゴがいない…・」

この9月、台風前の連休の間もこの淵の大アマゴ ウオッチングが可能だった。
淵の開きから、真ん中あたりに堂々と浮いていた。
その大アマゴが消えた…・。
連休期間に釣られたのか?いやそんなはずはない…・。
今日、先行者が有って隠れたのか?辺りをチェックするが、いましがた通った足跡は無い。
「もしかして…・」

過去の経験が頭の中を駆け巡る。
夏になって淵に移動する大アマゴ~9月中旬以降の雨で遡上のパターン。
上流域の支流に位置するこの淵から大アマゴが動き出すのは産卵前最後の行動だ。
産卵床はもうこの近くのエリアにある。
最後の移動を前に、大アマゴは淵の頭に入る。

「これはもしかして…・」
さらに、期待が高まる。

淵頭に入るとその姿を見つけることは出来ない。白泡の下についたアマゴを肉眼で見つけることは出来ないのだ。

ここで、過去にこの水系で秋の大アマゴをヒットさせたタイミングを白状しよう。
巨大アマゴに近づく秘密を、今ここで全て明かそうと思う。

「この時期、こうした増水の後、水が落ち着いて少し濁りのある流れで、淵の頭に最終遡上の準備で移動したタイミング」まさに、今日の状況はそれに近い。

これが、難攻不落の巨大アマゴが口を使う、瞬きのようなチャンスなのだ。
淵の真ん中から、開きに浮いている状態では、まず口を使うことは無い。
サイトフィッシングで釣るタイミングも有るのだろうが、残念ながらこの流れでそのチャンスが有ったとしても、それはさらに産卵場所近くに動いた10月の禁漁に入った時期なので釣りのターゲットにはならない。
9月の禁漁前 最終盤のチャンスはこうした淵頭において、その奇跡のタイミングが訪れる。

水量的にエリアの選択は自信がある。核心をもって、入渓する。
右岸に左岸にと行き来しながら、川通しで釣り上がれる規模の水量と渓相。
初めてこの流れを見たアングラーは、この水量の渓流に巨大なアマゴが潜むこと自体を疑うかもしれない。

間違いなく居る…・
あとは、大アマゴのご機嫌次第だ。

狙いの淵に接近する。
頭について、上流を意識しているなら射程距離まで接近できる。
先ずは淵尻から攻め上がる。
淵尻の砂地にも辺りにも、本日の人間の痕跡はない。
キャストして一発目、
いきなり、極美しいアベレージサイズのアマゴがヒットする。
場を荒らしたくないので、素早く静かにランディグして一段降りた瀬の脇で写真を撮って
さらに一段下の瀬にリリース。
ここで、本命の淵でバシャバシャやったら、ここでこの淵での試合は終了する。

息を止める。
ゴルジェの岩壁を張り付いて少しずつアプローチする。
先人たる渓流の達人より、学んだ「石化け」
とにかく静かに、ゆっくりと淵の頭が射程距離に入るまでアプローチする。
進行速度は普段の釣り上がりの3倍くらい遅いスピード。ガンドッグに身を移す。
ストーキングでの釣り上がりと言うより、野獣 ナマケモノの動きのように鈍い。

「猟犬 ガンドッグ、 イングリッシュ セッター」
ターゲットの雉を認知してから、最後追い詰めるまで…距離が遠いとススッツと近づき、近くになればなるほど、動きはゆっくりと獲物を追いこんでゆく。
抜き足差し足忍び足。
忍者のごとく決してキジを飛び立たせないように、徐々に間合いを詰める。
最後のアプローチは石膏で固めたように動きが固まって、射程に雉をとらえると、完全にセットして動かなる…主人の号令で静寂が解かれるまでは…。
これがセッターと名付けられた由縁だ。

まるでイングリッシュ セッターのように巨大アマゴとの距離を詰めてゆく。
射程の岩壁に張り付く。
でもすぐにキャストしない。

大アマゴの警戒心と、遡上への意欲を想像する。
一瞬淵の頭が透けて見えたような気がした。
頭についた大アマゴは、侵入者の気配に一瞬身を固くして、20cmほど岩盤のスリットよりに動く。

「石化け」
岩盤にて岩の一部になる。

目を閉じて、どれだけ長く息を潜めただろうか。
一度はスリット寄りに少しだけ動いた大アマゴが、再び淵頭のフィーダーレーンの先頭に戻るまで…・。

ベイトキャスター 56UL 今シーズン最後の使命。
ミノーは敬意を込めて、ブラウニー5cmシンキング 金黒。

ブラウニー5cmシンキングを選んだのは、ほかにも理由がある。
この日の水量で、スパシンをぶち込んだら一発で場所を潰す可能性があると、僕自身が神経質になっているからだ。
はっきり言って今日の状況は、増水パターンでの釣りは通用しない。

着水音が柔らかい小粒で軽量のブラウニー5cmシンキング。
場を荒らさず静かにアプローチできる事が強みだ。
バルサ材と重心固定がサイレントの威力を発揮する、タフな状況での最終ウェポンなのだ。

もう一つ選択理由がある。
この水量であれば、巨大アマゴが丸呑みしても小型の細軸カルティバST―11フックがなんとか耐えてくれると判断したからだ。
ターゲットのサイズだけでなく、水量と水勢、水の押しの強さでもルアーセレクトを慎重に考える。水量が多ければ少しルアーのボリュームが欲しくなるし、増水の流れではワンサイズ大きなフックと、太軸のフックが必要となる。

今日のカラー選択は金黒と真っ黒の2種。
この淵まで、4匹のアマゴの反応を見て、光りすぎないカラーを選択。

満を持してタックルを備え、心静かに瞼をゆっくり開いた。

ビシュッツ!! ベイトキャスター 56ULが鞭のようにしなって、
2.5gのミノーを限界地点まで運んでゆく。
淵頭ギリギリ上段に着水すると、ほとんどラインスラックを取るだけで、
チョンチョンチョンと小刻みに連続トゥイッチで誘う…・
何事も起きない。
少しアクションを強く早くする…・
何事も起きない。
3投目、2週前に本アマゴをヒットさせたアクションを連想する。

いきなり一投目に強いアクションで誘うと、そのアクションがシチュエーションに有っていない場合には、ターゲットは怯え一投でスレてしまいヒットどころかポイントを潰す場合もある。
だから、アクションの変化を一つのポイントで行う場合は、ソフトから徐々に強くへと心がけている。時にはスローのストレート リトリーブからスタートする。
ましてや、今日のターゲットは難攻不落の巨大アマゴなのだ、慎重に静かにペースを変えてゆく。

そして3投目…

ビュッツ カリッツ ビュッツ カリッツ…ズズドッツッ!!
いきなり赤黒い塊がストップからゴーしたそのタイミングでゴクッツとブラウニーを抑え込んだ。
真っ黒に玉になって、山鳴りのように転がり落ちてくる。

それまでのヒットはギラギラ 銀ピカ。
このヒットの黒さが婚姻色をまとった、狙いの大アマゴであることは、その瞬間に察知できた。
激しくスリットを目指すが、ガッツリとテンションをかけて一気にランディングした。


見事な婚姻色のオス 37cmの大アマゴが手に納まった。
恐ろしいほどのいかつい顔つき。
僕を恨めしく興奮して睨みつける。
リア、フロントの両フックが納まりセットフック。
ネットに絡んだブラウニーを外すと、一本のフックはかなり開いていた。
ダブルのフッキンングで助かった…。

薄暗いゴルジェの淵。
文句なし、狙いの大アマゴが手に納まった。
有終の美…今シーズンのファイナルを飾るにふさわしい、見事な大アマゴ。
作戦を詰めに詰めて、出来過ぎなくらい上手くはまった。

しかし、今日のファイナル釣行はこれが序章だった…
物凄い物に出会うことになる。

この日のパターンはこうだ。
完全に釣り上がりのアップストリームの釣り。
水深の浅い瀬には何もいない。
チャラ瀬もガンガン瀬も飛ばす。

絶好のトロ瀬では、アベレージから良型が顔を出す。
ストロークは連続のトゥイッチでドリフト気味にラインスラックを取る。
早いアクションや、ジャークでは全くヒットしない。

500mに2か所くらいのペースで、淵が現れる。
ある意味、大物のポイントは絞りやすい。
淵尻や駆け上がりではアベレージから良型。
数はもう、止まらないくらい出る。

しかし尺級、その上の巨大アマゴのヒットは、淵の頭に集中しているのだ。
アクションはショート ジャーク&ストップ&ゴー。
このアクションでトロ瀬や淵尻で誘ってみても良型どころか、チビヤマメすらヒットしない。

核心的な大淵は一か所30分かけて、慎重にやる。
細心の注意を払ったユックリの釣り上がりでは、一日歩いて3Km 淵10か所プラス。
ある淵では「泣き弱アマゴ」…
ある淵では26cmの良型…
その特Aポイントでヒットするのが全て尺上というほど甘くは無い。
当然ノーヒットの淵もある。
それでも大物の可能性は大場所の頭なのだろう、今日のパターンでは…

そして過去に40cmUPを釣ったことのある大淵に立った。
アプローチは繊細に慎重に。しかし、気持ちに焦りも迷いもない。
引き込まれるように淵頭への射程距離へ。

ソフトな連続トゥイッチで26cmの良型がヒット。
次に20cmのアベレージ。
頭で2匹ヒット。
「これで終わりかな…」

最後にスピード ジャーク&ストップ&ゴー
ビュッツ カリッツ…ズズズドッツ!!一発目のアクションで、
いきなり深みから巨大な塊がブラウニーシンキング5cm ブラックを襲った!
2匹のアマゴが捕食したと勘違いして、いきなり巨大な奴にもスイッチが入ったのか?!

ズズイッツ ズズズズッツ…・今までなかったドラッグの滑りが明らかにサイズと世界の違いを一瞬で伝えてくれる。
グリングリンにもがく黒い塊…
「とんでもないのが来た…」
有りえない事件じゃないけれど、決して期待してはいけない、物凄い者と今繋がっている。
ローリングが止まったら一気に岩盤のスリットを目指して突っ込んできた。
それも、僕の足元の岩盤スリットをめがけて…。
狙いのターゲットとしては最大級の魚。しかもそれは、巨大アマゴの襲来以外有りえない。
興奮で、万全のタックルが華奢に感じる。

ロッドは「しの字」にしなり、ホールドしても止められない。
思いっきり手を淵の方に伸ばしてロッドを延長、7Ft.ロッドまで腕のレングスで伸ばし、背中を丸めて曲げて体全体を使って足元のスリットから、なんとか淵の奥方に引きはがす。
スプールを押さえ、ロッドをマックスに絞り強引に引きはがす。
ロッドが折れるか、ラインブレークか、フックが伸びるか…
敗北の全てが一瞬のうちに頭によぎり…
「ひるむとやられる」
そう決心して全身の力で巨大な主を引きはがして、その勢いで強引に一気にネットイン…。



物凄い者が納まった。
ルアーは丸呑みでフロントとリアのフック共に、大きくひん曲がったアナコンダのような口の中にしっかりと納まっている。

腰が抜けた。潰れて崩れ落ちた…・。
膝がガクガクする。体が興奮で震えだす…。
少年時代に見たあの、化け物のような婚姻色のアマゴ…
一気にタイムスリップして、恐れをなしたあの小僧に戻ってしまった。

特特大 巨大 マックス 大アマゴ。
極美 婚姻色の 全鰭パーフェクト 鼻曲りのネイテイブ!
賞賛の言葉を全て並べても足りない。
44cmのオス 巨大アマゴ…究極の魚体に絶句…

はっきり言ってレコードクラス。
恐ろしいほど激しい、秋の巨大アマゴをゲット出来たこの瞬間のこの奇跡。
生涯…片手で指折り数えるほどしか無い。
しかもオスの パーフェクトな44cmとなると、この20年でも特筆の巨大アマゴだと思う。
狙って釣るとか、毎年コンスタントに釣りますなんて、おこがましくて言えるサイズではない。

全身の力が抜けた。
ひたすらこの巨大なモンスターとドピーカンの秋の空を交互に見つめていた、
そのまま遼遠く天空に吸い込まれて、僕の少年時代へとワープしていった。

圧倒的な出来事と共に、今シーズンが終わった。
2011年 飛騨の渓流 56ULベイトキャスターの旅が終わった。
突然シーズンが幕を閉じた、季節の終焉。


化け物に出会った、その夜。
深い森、ナースログのアロマを持つスペインの赤ワイン
「アルタスリ 2009年」

そして天然の茸、「茸香(じこう)」を炭火であぶって、今日この一日に浸った。
茸香(じこう)は朽ちた広葉樹の大木の脇に群生する、天然の茸。
香ばしく、強烈な蒸した香りは、媚薬の香水と評したくなるくらい甘美で、その香りの上品さと強さゆえに、茸香と名付けられた。
生醤油を付けて炭火で炙っていただく。
深い赤ワインには、この炙りが最高にマッチする。
芳香は薄暗く深い森の恵み。

このキノコは乾燥させて保存した後に水でもどして、醤油と味醂で甘辛く煮つけ、正月の「お節料理の華」として振る舞われる。飛騨の食文化にとって特別なキノコでもある。
縁起物の孤高の茸である。

そして今日のワインは、グルナッシュ種(ブドウの品種)の独特なアーシーな(粘土のミネラルを思わせる)地の香、森の香り、深い苔むした大木の香、甘美な杏子の過熟した香りを奏でてくれる。
茸香との完璧なハーモニー。
一口含めば、先ほどまでへばり付いていたあの岩盤の暗いゴルジェへと、一気にタイムスリップしてしまう。
飲むほどにメルトダウン…揺れるように溶けてゆく宵の中を、そのままゆっくりと漂っていた。
(苔むした深い森の香りのする重厚な赤ワインなのです。
キノコ料理とよく合う。シイタケでもシメジでも舞茸でもベストマッチです。
高額なワインではないので、是非お試しあれ!
秋の御岳山、深い森の香りを感じてみてください。たとえば、シイタケを炭火で焼いて大根おろしと生醤油でいただく。限りなくシイタケのうまみと香りと…このワインとの相性が堪能できるはずです。)

過ぎ去った2011年 飛騨、渓流の旅。
今シーズンの有終の美と称するには余りあるあの日の出来事だが…
実はこの一週間前の火曜日。9月20日…
僕はある特別なアマゴに会いに行った。
少年時代、赤鉛筆でなぞった白地図の支流群の中のあの沢。

あの時一つ一つ支流を詰めてゆく中で、とあることに気が付いた。
標高が上がると、徐々にアマゴの魚影が薄くなり岩魚ばかりになる。
「アマゴって標高何メートルまで、住んでいるのだろう…限界点は何処だろう…」
少年の素朴な疑問は、赤鉛筆で1300m以上の標高まで達していた。

限界標高の極限のアマゴは、色濃く頬にまでパーマークがかかり、
その青紫色のパーマークは頬だけで3個も連なって、全身のパーマークと繋がってゆく。
その斑点は、アイシャドーのように目の上から連なり、離れて見ると一直線の薄い黒い帯のように見える。
体の半分まで、円に近いパーマークがランダムに繋がり、体の半分より尾までは、楕円の規則的なパーマークが並ぶ。朱点は印鑑の朱肉のようにあでやかだ。
そして、この細い流れのすべてのアマゴが同系統の体色と紋様を見せてくれるのだ。

漁協の放流もなく、エサの少ない細い流れで氷河期から純潔の血を繋ぐその究極の本アマゴは、秋になって25cmほどで成熟して産卵する。
これより高い標高で、僕はアマゴを釣ったことが無い。

僕は35年ぶりにその沢に降りた。
林道から川の脇をなるべく離れて、2時間かけて目的の入渓点まで歩く。
途中は獣の痕跡。
イノシシのエサを掘り散らかした跡。熊の痕跡。猿の声…ニホンカモシカの足跡。
苔は厚くクッションのように重なり、さながら「もののけの森」のようだ。
沢に朽ちた大木は、次世代の沢の栄養となる。「ナースログ」

2時間歩いて沢の脇を降り、その沢を4時間かけて釣り上がる。
その小さな流れで35年前と変わらないほとんど光の届かない森の深く奥で、
良型のアマゴを手にした。
感動で体が震えて止まらない。

「あの流れはあのままだった…・」

何かが潜む深い森の中で、自然遺産が繋がっていることに歓喜して、
ひたすら熱い物が込み上げてきた。
僕にとって、このアマゴも究極の本アマゴ。
この流れ最大のアマゴ…。
太古の時代からの美しき残党。
35年の時を越えた限界標高の奇跡に、唯々ため息と少年時代の森への畏怖の念が蘇ってきた。

この「もののけ」に会いに行ったから、その一週間後に、
あの巨大アマゴとの出会いがあったのかもしれない…。

56ULベイトキャスターを手にしたからこそ、
特別な時間を過ごすことが出来た2011年の秋。
もうすぐ、皆さんにもこのシャフトをお届けできる。
深く思いの詰まったこのロッドに、魂を是非入魂していただきたい。
新しい時代、生涯のメモリアルトラウトが皆さんの手に納まると信じている。
次のビッグバイトは貴方のベイトキャスターを襲うのかもしれない…

2011年 飛騨 ベイトキャスター UL ジャーニー 終着 (完)



タックルデータ
ロッド:ザウルス ボロン トラウトスピン ベイトキャスター 56UL-C
リール:アブ アンバサダー 2601c ULチューニング
ライン:レグロン ワールドプレミアム 6Lb
ルアー:ブラウニー 5cm シンキング 金黒、ブラック。





(番外編…釣りのお供に、うまいもんの話し)
「御岳水系フィッシング!寄り道のすすめ」

このところよく紹介している飛騨川水系。釣りだけじゃもったいない。
飛騨川水系の最上流部 高山市高根町日和田から一つ長峰峠を越えると、
高原の蕎麦の名産地 「開田高原」が御岳の裾野にひろがる。
釣りをして、一つ峠を越えて この蕎麦を楽しまない手はない。
極上の高原そばの秘密です。ヒデ絶賛のお勧め!!

標高1300m 高冷地の蕎麦は香ばしい風味が強烈で香り高い。
開田産そば100%の 「開田高原そば」を、ちょっと寄り道して堪能しよう。

お勧め:
「ざるそば」 中西屋、まつば
そばの質を見定めるには、まずはざるそば。
上品な(中西屋)に素朴な(まつば)。両店どちらも香り高い。

「すんきそば」 まつば
開田名物の(すんき)はカブの葉と茎を乳酸発酵させた漬物。
あったかいそばに酸味の利いたスンキのアクセントは、2日酔いでもすいすい入ってゆく。
一度おためしあれ!
自家製の(すんき)は素朴で酸っぱくて、やみつきに…


そしてマイブーム 一押しの
「とうじそば」大目旅館
開田名物のもう一方の雄!
鉄鍋に天然のきのこ「カヤシメジ」を乾燥させて水で戻したものを
鰹の利いた汁で煮込み、名物のスンキを入れて、
ゆで上がったそばを木の籠に入れて温めてお椀に移し、
汁とネギなどを入れていただく。悶絶のうまさ…
カヤシメジの出汁が効いています。
(とうじそば)とは温泉治療の湯治かと思ったら
汁に投げ入れるの「投汁」(とうじ)が語源とのこと。

Not Only Fishing! フィッシング+高原そばの寄り道

2011年10月


田中 秀人





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