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SAURUS > エッセイ > トップノッチ > 今再び、釣りへ出掛けよう。
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トップノッチ
ESSAY: Top Notch


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桜の花見の宴に呼ばれた僕は、
一つの約束をキャンセルして仕事を終わらせて、
必死の想いであの人のログハウスへと向かった。
だからその時に乗っていた車は、
たまたま仕事で使うために仲間に借りた日産の「フェアレディZ」だった。

特に何も意味はなかった。
ただ、あの人に呼ばれたのだから、
とにかく一番早く行ける方法をとったのだ。
しかし、渋滞に待たされて少し遅れてしまった。

ログハウスへ到着すると、
すでにデキ上がっているあの人が腹を突き出しながら
ワイングラスを片手にふらふらとこちらへ寄って来た。

「おい、遅いぞ、トップノッチ」
『すいません、渋滞で・・・』
「言い訳をするなッ!!」
「おいおい、なんだぁ~、この車はぁ~、、」
「ゼットォ~~~、、」
『ん?』
「何だこの車は、お前の乗る車じゃないだろッ」
『速いですよ、この車』

すると、かなり切れ気味にたたみかけられた。
「お前はもっと音の良い車に乗れ!妥協しているじゃないかッ!!」
「スポーツカーなら、ポルシェかフェラーリに決まってるだろうッ!!」

僕の心の中は、『うるせーよ、酔っぱらいのじじいー』だった。
しかも、そこに居合わせた山周が便乗し、
「これはダサいよなぁ~」とか、
「このプレートはダメだぁ~」とか、
とにかく必死の想いでやって来た僕に、
こうもしつこくするようなことなのか?とばかりにまだまだ文句を並べ浴びせた。

いい加減しつこい二人に「カチン!」ときた僕は、
料理も酒も口にすることなくその車に乗り込み、
すっ飛ばして東京へと帰ってしまった。







これが、あの人との最後の日になった。
今思えば、あれは僕にとってまさに図星だった。

実は口にはしなかったけれど、
ずっと前からそれは心に決めていたことだったのだ。
でも、家族ができたとか、仕事が優先だとか、
何かと自分に理由を付けて、
後回しにしていたと思う。
それをそんな風に刺すように指摘してくれる人など、
僕の周りにはもういない。

文句を言いながらも、
あの人の指摘が僕にとっては最良の刺激であり、
時には「道しるべ」にさえなっていたのかもしれない。

あれから3年以上の時が流れた。
それぞれの仕事や家族の事情、心や体の事情により、
釣場に向かう頻度が減ってきているように思った。
そしてあの人が亡くなって以来、
心の模様と目的が変わって来ているようにも思った。
結局僕らはあの人に褒めてもらいたくて、
喜んでもらいたくて、
時には何かを指摘されたくて、釣りをしていたのかもしれない。

デカい魚を釣れば、心から共に感動して褒めてくれた、あの人。
普通の魚を釣れば、心から分かち合って満足してくれた、あの人。
小さい魚を釣れば、心から貶して喜んでくれた、あの人。
魚が釣れなければ、心から笑って励ましてくれた、あの人。





あの人はいつもでも本気だった。

もし一人で釣り場へ行き、魚を釣っても、
それが何処のどんな魚で、
どんな道具でどんな釣り方だったのか。
それを話す相手がいなければ、
それはただの狩猟で終わってしまうかもしれない。
でも「大人の遊び」と言われた僕らの趣味は、
自然と魚が大好きな者同士の世代を超えた、
最良のコミュニケーションの手段だったはずだ。

時にそれを競うこともあるだろう。
時にそれを驕ることもあるだろう。
時にそれに浸ることもあるだろう。
時にそれに狂うこともあるだろう。

様々な手法や解釈があるかもしれないが、
結局一番大切なことは仲間への思いやりであり、
「人と人」なのだと思うようになった。

時に仕事を失った者もいる。
時に家族を失った者もいる。
時に恋人を失った者もいる。
時に仲間を失った者もいる。

でも間違いなく心に刻まれているのは、
心から楽しかった釣り場での思い出。

金のためでもなく、純粋に魚を追いかけ、夢を追いかけ、
理想を追いかけ、師匠を追いかけた日々達。

僕らは今、心から釣りを楽しんでいるのだろうか?
そして、妥協することなく自分らしさを求め続けているのだろうか?







今、あの人との思い出の地にいる。

そこには不意をつかれた急なバイトに、
慌てふためいているモトシがいた。

踊る竿先を感じながらも何が起きたのかわからない様子で、
どうすれば良いのかもわからずに、
とにかく何かをやっているモトシ。

もう頭は真っ白で、
「えっッ? えっッ?」
「どうすればいいの?」
そんなこんなの内に釣り上げた人生初めての一匹がこれ。

思わず僕は、「小っちゃッ!!」と叫んだ。
しかしそこには、生まれて初めてバスを釣ったモトシの
屈託のない真の笑顔があった。
仕事の合間をぬって、家族に気を使いながらも今日まで半年近くかかり、
お互い本当に苦労したけれど、
それでも信じて釣り場に通い続けたね。
僕は自分のことのように心から嬉しかった。

もうこうなると、トップウォーターのこの釣りが、
これで終われるはずもない。
モトシの初めてなりに心と体に残った、何か自分なりの反省か、
後悔やら悔しさやら意地か挑戦があったようで、
あるいは野性的な嗅覚か天性の才能だったのか、
何度も本気でルアーを演出するモトシ。

とりあえず一本取らせたと安堵し、
パンをくわえながらルアーを眺めて
「まぁまぁだな。」なんて余裕をかましている僕。

とっ、すると、

次のバイトは先程の「バシャッ!」と勢いだけのものとは明らかに違った。
そう、水面が「ヌルっ」と割れる、地味に重たいあれ!。

いやはや、コヤツ、何も言わずに巻き合わせたよ。
昔はとある競技でけっこう名を上げた選手だったこの男、
あっという間に目の醒めるようなデカバスをキャッチしたのだ。

動揺を隠しきれない僕は慌ててパンを飲み込み、
ルアーをチェンジして本気モードに切り替わる。
初めてバスを釣った時の、
あの頃のドキドキと煌めくような心が蘇がえって来た。
そう、心から釣りを楽しむその真っすぐなモトシの笑顔に
僕は嫉妬していたのだ。










バス初心者の仲間が教えてくれることがあった。

そして、広い空の向こうに、あの人の満足そうな笑顔がこっちを見ていた。

「おいおいトップノッチ~、やられてるじゃないか~」







充実感と高揚感に溢れていた。
さぁ、疲れた大人の少年よ、
想像力を膨らませて、今再び、釣りに出掛けよう。








(2014年6月)


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