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SAURUS > 釣行レポート > #02 北回帰・友とイトウと北海道
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北海道を離れてもうすぐ2年がたとうとしている。

新たな環境、出会い、そして別れ等を経て私のイトウ釣りは少しずつだが変化してきているように思う。
毎週のように川に立っていた頃と比べれば釣行回数は激減している。当然かもしれないが、焦るように川に向かっていたあの頃と比べれば、今の私の旅はもっと大切な何かを感じ取れるようになった。それは雄大な自然であったり、時には素晴らしい魚達だったり、いつも暖かく迎え入れてくれる友人だったりする。

そんなことを感じつつ7月の初旬、約ひと月振りに北の大地に立つことができた。5月は大雨で増水とメコンの様な濁りにやられてイトウの顔を見ることはできなかった。

今回はどうなるのだろうか、希望と不安を胸に一路、北へ向かう。渇水と高水温なのは事前にわかっている。今の私には好条件を選んで釣行することは不可能に近い。目の前にある条件を受け入れて挑む、それ以外に選択はないのである。

今回のファーストキャストは、過去の実績十分なポイントに入ることに決めた。ここは流れの筋にイトウが着くポイントでいれば比較的早く勝負がつくポイントでもある。

パイロットルアーはニューシートプス13.5cmの金赤だ。元々はシーバス用のぶっ飛びミノーだが私達の間ではイトウ用のスタンダードだ。逆風の中も物ともせず弾丸のように飛んでいき正にベイトタックルにマストである。
早々に結果は出た。友人がキャストしたニューシートプスにくらいついてきたのは70オーバーのイトウだ。高水温のせいだろうか、引きが弱いが久々のイトウの顔に気分も高揚してくる。



柳の下のドジョウならず2匹目のイトウを狙うが全く反応は無い。うーん厳しいパターンだ。
抜けるような青空も朝マズメのチャンスを逃した私にはうらめしい。他のポイントにいった仲間達も駄目だったようだ。それはそうだ、この天気じゃ状況は厳しい。
「せっかく東京を離れてきたのにこの暑さはないよ」、と愚痴を言いたくなる。それでも僅かな期待を胸にめぼしいポイントをまわり川に立ちこみキャストを繰り返す。

イトウの反応は無いけれど東京で日常を送りながら待ち望んでいた光景が目の前にある。「やっぱ北海道はいいよな」しみじみ感じる。
感傷に浸りながらもポイントを回っていると次第に状況がみえてきた。このまま日中に勝負をかけても厳しいだろう。やはり勝負は夕まずめしかない。
そうすると幾つか回ってきた場所の中でもあそこだろう、判断基準はベイトの数と水温だ。となるとマズメまでの時間を埋めてくれるのは冷えたビールと昼寝しかない。

川を眺めながらビールを飲み干す。何処で飲んでもビールは旨いけど、乾いた北国の空気の中で呑むビールは格別だ。

仲間達を見ると既に眠っている。忙しい合間を縫って駆けつけてくれる仲間達に感謝しながら私も電池の切れたおもちゃのように眠りに落ちていった。目を覚ますと、まだ日差しがさんさんと照りつけている。もう夕方といって良い時間なのに、快晴すぎるのも良し悪しだなと思いつつウェダーに足を通す。シューズの紐をきつく締めると同時に釣師の気持ちもグッと引き締まる。



アーガイルクラブのクラシックベストに袖を通してハンチングを被れば私のイトウ釣りの準備は整った。しかし、まだ本命ポイントにはちょっと時間が早すぎる。他のトラウトと比較して悪条件下のイトウの警戒心は格段に強い、悪戯にキャストして場を荒らす事だけは避けたい。

もう一つ気になるポイントを覗こう。20年以上の付き合いの親友のアクセルをせかしながら川へ向かう。

此処で出てもおかしくないんだけどな、数々の思い出を作ってくれたポイントに立つもやはり川は沈黙を守っている。限界だ、やはりあそこしかない。あそこが駄目ならビールだ、温泉だと騒ぎながら一路ポイントに向かう。

薄暗くなった此処は、魚の気配が濃厚だ。間違いなく出る、そう確信して川に立つ。
ロッドはクイックトゥイッチン71Hにアンバサダー5500C、ライン20lb、リーダー40lb。ミノーはシートプス・ウッド14cmの金赤だ。今の状況に飛距離はいらない。ウッドのしなやかな泳ぎと魔力にかけようと思った。



1投目、シートプスの軽快な泳ぎが私の手元に伝わってくる。
2投目、1回目のストップ後「グッグッ」、忘れかけていた重量感に思い切り合わせを入れると心地よい首振りが手元に伝わってくる。首振りの幅とその強さが悪くないサイズということを教えてくれている。

「ドバッ!ドバッ!」。

これだよ、このトルク、これを感じるためにわざわざ、きたんだよ。久しぶりのイトウの引きを楽しみつつも早めの決着をつけるよう引き寄せる。浅瀬に寄せてみると薄紫に輝く、非常に美しい魚体のイトウだ。

スケールを当てると87cm。この時期この条件では文句ないサイズだ。写真撮影もそこそこにリリースする。
あたりを見回すとまだまだ気配が濃厚だ。イトウ達の晩餐が始まったようだ。
しかし十分だ、私達も晩餐の時間だ。せめて夜くらいはゆっくりイトウたちを休ませてあげよう。明日の朝もう一度チャレンジすればいいのだから。そして仲間達と祝杯を上げながらのイトウ談義は終わらない。釣りをしている時間以上に大切で楽しい時間だ。
翌日、早朝からロッドを振るも、イトウは姿を見せてくれなかった。




「次は何時くるんだ?」

仲間が聞いてくる。「今度は秋の陣だね。絶対メーターオーバー獲るよ。」
そして仲間達に見送られ、私は飛行機で東京に戻った。翌日、「やったじゃねえかよ。おめでとう!」則さんの祝福に喜びもまた倍増する。「で、どんな状況だったの」、則さんの問いかけに私は子供が夏休みの報告をするように話す。

「そうか、そうか。まぁ、これでまた、お前も東京でがんばれるじゃない。もう一杯呑もうよ」

則さん、すんません、僕はもう呑めません。
・・・頭の中は芋焼酎ですっかりクラクラになった。しかし、私の心は爽やかに晴れわたる北の大地に置き去りにしたままだ。

(2007年)

ザウルス・アソシエイト 岩井 淳利




Angler Photoアングラー ザウルス・アソシエイト 岩井 淳利
デカいイトウを釣るために週末だけの北海道釣行をくり返す情熱のベイトキャスター。客観的な状況分析と何事も譲らない強いこだわりでビッグトラウトだけを狙い続ける。「納得のいく、たった1尾だけでいい」と言い切る生粋のイトウ釣り師。東京ロッド&ガンクラブ所属。






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