1月3日は毎年恒例の釣初め日。
早朝6時。いつもの仲間が房総のバスポンドに集う。
今年の釣り運を賭けて、ある者は一番信頼するタックルで、またある者は今年に向けて備えたニュータックルで勝負する。
私は、自分の右腕というべき「フェンウィック ランカースティック2054」と「アブ2500C」。
トップノッチは、最近お気に入りの「フィリプソン EC60L」と「フルーガー2600」。
花山氏は、王道「フェンウィック ランカースティックFC-60」と「アブ5500C」。
鈴木氏は、至近距離からのキャストを考えての「スーパーストライクFO55L」と「アブ2500C」といった具合だ。
各自湖面を眺めながら特段はやる気持ちもなく、陽が昇り始めても焦ることもなく、ゆっくりと準備を進めていく。
そう、毎年釣初めは我々にとっての湖上での新年会であり、これから始まる一年釣行という宴に向けてのセレモニー。急ぐことはない。この日ばかりは釣果は二の次なのである。
ようやく準備が整った6時半頃、今年の運勢を試すかのように2艇のボートが思い思いのポイントに向けて出艇した。花山氏が沸かしてくれたコーヒーを片手に天を仰ぎながら、透通った冬の晴天に感謝する。
「最高に気持ちいいじゃねーか。」
風は吹いてはいない。体感温度も心なしか高く感じる。
水温を確かめる。先週の寒波の影響が危惧されたが、想像していたより悪くはない。
今年最初に結ぶルアーは決めていた。真冬の秘密兵器「
ウッドゥンアンクル・パロットカラー」。
こいつには何度も窮地を救ってもらった。80年代から使用しているこいつはすでに歯型とクラックでボロボロになっているが、今なお私にとって大切なパートナーである。
そう。こいつを結ぶ時、いつもあの時の本栖湖を思い出す。
それは確か12月初め頃だったか。
凍えるような寒い朝、なぜか深場に落ちていない一匹のバス。
気配を消して大岩の影からルアーをキャストした。
湖面は風もなく、今にも歩けそうな誰も踏み込んでいない新雪のよう。
「悟られるな。」
そんな緊迫した空気をよそに、しばらくして私とバスが対峙している大岩の真上に二人の男がやってきた。
「昔、ここから芸妓と客が無理心中しましてね。」
「ちょうどここがヒメマスの回遊ポイントになっています。」
ウッドゥンアンクルと見えバスに集中しながらも自然と耳に入ってくる、どうでもいい話。
はやく移動してくれないか。ひたすら願う。
そして数分後。意外にも先に焦れていたのは48センチの本栖バスのほうであった。ようやく男たちが大岩から去り、人の気配が消えた瞬間、彼はルアーを押さえ込むようにして引っ手繰っていった。
こいつを手にすると、そんな懐かしい冬釣行が蘇る。
さぁ、記念すべき2008年第1投。ルアーをしっかりロッドにのせて、思いっきり振りきった。ルアーは大きな弧を描いてワンド奥まで飛んでいく。
私は感触を確かめるように、あえてスローにアクションさせる。
ウッドゥンアンクルが奏でる、この「くぐもった音」が湖底に響き渡る。
ウッド特有の水絡みが、違和感なくルアーを水中に同化させる。
ひたすらポップ音とダートを繰り返し、訪れた時は6時50分。ワンドの奥まで日が差し込んできたその瞬間、沈黙の湖面が突如盛り上がり、
ウッドゥンアンクルが「ガボッ」という捕食音とともに水の中へと引き込まれていった。
真冬の貴重なバイト。ラッキーともいえる偶然の出会いが必然となった瞬間だ。
確かこんなやり取りだった。
ボート手前2メートルでバスが右に走る。
すぐさまロッドを左へ返す。
冬バスのファイトにしては激しい。トップに出たこのバスは破壊的なファイトを繰り返す。
豪快なジャンプによって冷たい飛沫が顔にかかる。
キャッチ寸前で最後の力を振り絞り、再度ボートの下へと潜り込む。
時間にして1分もないやりとりだったが、この冬場という厳しい状況下、今年初めてのバスとの出会い。私はこのつかの間の「至福の時」をじっくりと堪能した。
そして現実(=近場のバスポンド)の世界でも、充分満足しうる世界があることを再認識し喜びに浸る。
年末、花山氏と行った薩摩路釣行。ゆるく流れる時間に乗って、生きる上で必要な「ノルマという束縛」から解放されていた。
脱力に近い感覚を経て到達したこの心情。普段では味わうことのできない「至福の時」。
ただこれは、ある意味、遠征という一種の麻薬に取り付かれた幻想とも言える。
そう、詰まるところ言える事は一つだけ。遠征しても近場であろうとも好きなタックルと大切な仲間さえいれば、私はいつでも「至福の時」を味わうことができる。
そして釣り人の優位性を極力排除した、魚に媚びることのないトップウォータープラッギングという釣法にこだわる限り、いつまでもこの喜びに浸ることができる。
この15分後、私は盟友
ウッドゥンスマートアレック(レッドヘッド)で本日2匹目のバスを釣り、30分後には花山が、豪快なバイトとともにガードスミス(ゴーストハデアタマ)で今年初めての「至福の時」を堪能した。
Jun