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Tokyo Rod & Gun Club 田中 秀人
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朝霧の中、目が覚めるといつも早起きな仲間はもう準備に入っている。釣友の村上市在住の佐久間くんが合流してキャンパーをノックする。眠い眼をこすって慌てて起きあがると、素早く身支度をして三面川本流を目指す。途中、支流の高根川の橋を渡ろうとしたその瞬間、増水した支流の喉から手が出る流量と水色が目に入る。平水時では魅力がない。一昨年の増水した今日のような状況にて、この高根川で62cmの良型サクラマスを手にしている。
「ちょっと、高根やってみません。」
皆に声をかける。反対する者はいない。川が大きく湾曲してぶつかり、テトラがゴロゴロ入っているポイントに別れて入川することにした。ガンガン瀬が開き始め、白泡が切れ始めるまさにその流心におあつらえ向きにテトラが沈んでいる。川岸にはネコヤナギの木が張り出し、キャスティングポイントは一カ所しかない。
ヒットしそうなポイントは僅か3メートルの距離である上にダウンにクロスストリームさせないとミノーを通すことが出来ないような制約だらけのポイントである。
吸い込まれるようにキャストする。小刻みにクイックトゥイッチンを加え、テトラを過ぎてパシッッ、パッシッッと2回誘いを入れる。
ギラッッ!
出たっ! しかしミスバイトだ、針は触っていない。慌てず間を置くことにする。ルアーのカラーも金赤からブルーバックに変えてみる。
2分ほど経過しただろうか。高鳴る胸を押さえて、キャストする。必ずもう一回出ると確信が有った。先ほどよりも少し送り込みの深度を取り、やはりテトラを抜けようとする瞬間に先ほどよりも更に強く3発トゥイッチを入れる。
パシ パシ パシ!
ギラッッ!
狙い通り水深20cmまで食い上げて激しくCDレックスをくわえ込んだ。グリングリンに身体をねじってローリングしている。
しまった!
ヒットはしたが自分が最悪の状況に立っていることに気がついた。一歩も動けないし、魚は僅か3mの距離でガンガン瀬の流心で下流に流れながらストラクチャーを目指している。緩めたら終わり、テトラでラインブレークだ。ロッドをロックして耐える。
バシャッッ! 水面に身体を現した後、生体反応の消えたCDレックスのみが虚しく帰ってきた。
本当に情けない。どうしても獲れないと分かっていても、こうしたポイントにキャストしてしまう。そしていつもやられてしまう。この状況では5回に1回ゲットできたらラッキーだろう。何度同じ失敗を繰り返せば懲りるのだろうか。
「この、下手くそ!」
おのれに罵声を浴びせる。無性に自分に腹が立ち、これで今日は終わりだとうなだれてしまった。それほどサクラマスのヒットは貴重なのである。
田中 秀人