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SAURUS > エッセイ > 田中秀人 > 増水のサクラマス in 三面川 (3)
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Tokyo Rod & Gun Club
田中 秀人
ESSAY: Top Notch


第1話 | 第2話 | 第3話
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一本目の貴重な出会いを逃してしまい、しばらく落ち込んでいた私で有ったが、気を取り直し三面川本流を目ざす。今日の状況ならチャンスはまだあるはずだと今日は胸騒ぎがする。

信じてポイント移動を繰り返す中、ついにリベンジのチャンスがやってきた。増水したガンガンの流心に加え、足下は一気に深くなって大きな石がゴロゴロしている。先ほどにまして太い流れに加えすぐ下流に立木がせり出している。ヒットしても下ることはできない。超A難度のポイントだ。対岸に向けフルキャストする。サスペンド気味に流れにCDレックス8.5cmブルーバックをなじませ、クロスした瞬間に誘いをかける。ロッドは愛竿のベイトキャスター ZYリンクス 71Hだ。


パシッッ! ドン!
一発で出た。猛烈な勢いで上流に向かって走り出した。

「デ、デカイ!」

上に走るやつは特にデカイやつが多いのである。ロッドを立ててロックすると水面で暴れて一発でバレてしまう。ロッドを寝かせてサイドプレッシャーをかけていると、今度は下流を向いて猛烈なスピードで走り始めた。ベイトリールのドラッグ2キロ強がすごいスピードでラインを出して行く。スピニングタックルがメインでサクラマスを狙っていた時代は、こういったケースでことごとく辛酸をなめてきた。ベイトロッドを90度に絞りテンションをかけ続ける。50m走ってようやく止まった。走っては止め走っては止めを繰り返し、徐々にサクラマスは寄ってきたがどんどん岸よりの下流に張り付こうとする。




スタンディングポジションのすぐ下流に立木がせり出し動けない上、その木にラインが触れそうだ。水深は胸以上も有り、川通しに木をさける事は出来ない。いよいよクライマックスのチームワークが始まった。釣友の佐久間くんは下流20mでネットを持っている。師の則さんはなんと、立木に登り、枝を曲げて私が通れるスペースを空けてくれた。魚のテンションを緩めず、木の枝に乗り立木をかわすことが出来た。
残りの障害物は水中の石と岸際の芦の二つに絞られた。ついに魚が寄ってくるが、ネットを見ると再度ドラッグを引きずり出して走ってゆく、則さんがつぶやく。 「おい!全然弱らないじゃないか!」
ほんとに強い、こんな強いサクラは久しぶりだ。芦に絡んだラインを佐久間くんが身を乗り出して外してくれる。ラインも石に触れ、木に触れダメージが有るはずだ。意を決し、ロッドを立てる。最後の絞りに耐えきれずついに水面にサクラマスが現れた。そしてついに相棒が一発でランディングを決めてくれた。

「やったぞ!」

いきなり仲間の握手責めだ。
サクラマスは61cm、2.3キロの立派なサイズである。それにしてもこのサクラはサイズ以上にすごい引きだった。
時々こうしてサイズ以上に異常に引きの強いサクラマスがいる。逆に65cm有っても余り引かないサクラマスも時々いるのである。ますます神秘的な魚だと今更ながら思い知らされた。
A難度の条件、障害物、魚の強さを考えるとスピニングタックルでは100%やられていただろう。改めてベイトタックルの必然性を強く感じた。
ファイトは10分以上にも感じられ、非常にエキサイティングで中身の濃い納得のいく一本であったが、ハッキリと言える事がある。このサクラは一人では獲れなかった、三人のチームワークとベイトタックルが有って初めてランディングできた。偉大な三面の流れと釣友とZY71ベイトキャスターと主役のサクラマスに心から感謝したい。


こうして、今年の三面川は幕を閉じたわけであるが、最終的に川は静まりかえったままでシーズンは終わりを告げた。漁協への報告では、地元も含めほとんどの人が釣果0で有ったらしい。改めてあの日のサクラマスがいかに貴重であったかを思い返し、感動が蘇って来た。そしてこの釣行記を書きながら、三面川に思いをよせている。

「今年は不漁だったが、来年は絶対当たり年になるぞ。」

何の根拠もないのに、ポジティブにそう決めつけているシンプルな自分に気づき、進歩のなさに笑いが込み上げてきた。たぶん私は一生このままなんだろうな。
有り難う、サクラマス。有り難う、三面川。
又来年出会えることを一年間夢見て。


田中 秀人





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