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SAURUS > エッセイ > 田中秀人 > 2005年 鮭川釣行 (4)
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Tokyo Rod & Gun Club
田中 秀人
ESSAY: Top Notch


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すでに初夏の匂いが漂うこの日のファイナルは、岩盤がからんだ淵の頭で起こった。


西村氏が淵の開きで複数のサクラマスが跳ねているのを見てそちらの方向にまっすぐ向かっている。私は手前の岩盤の上流側に立ち、対岸の岩盤すれすれにミノーを送り込んでゆく平打ちアクションをイメージした。
ミノーをじっくり見せてから岩盤手前の流心でU字ターンを優しいトゥイッチで演出する。流心を出た瞬間、強くトゥイッチングを入れる。僅か5cm浮き上がったミノーの縦のU字効果に本日ベストワンが激しくバイトした。




水中の様子を想像してみる。岩盤に張り付いていたであろうサクラマスが誘われてゆっくりミノーの後方を追う。距離を置いてゆっくりミノーの後方を追う。こういうやる気のないチェイスはUターンしてしまってヒットしないことがほとんどだと思う。ここでチェンジオブペースと縦のU字効果で一気に闘争心にスイッチを入れ、バイトに繋げると言うシナリオだ。


積み上げていった最後のパズルがはまって最高の結果が訪れた。
流心に立ったままやり取りをする。自分も辛いが、サクラマスにも同様にプレッシャーがかかっている。絶対自分から下がってはいけないと自分に言い聞かせる。
何度かの押し込みをこらえて、美しい自然の産物が私のネットに収まってゆく。そのランディングの瞬間サクラマスと目が合った。険しいファイトに反して、とても優しい目をしている。


その瞬間、水の音、鳥の声、木々の風音、全てが消えた。
息が一瞬止まる。3本目のサクラマスは本日最大の58cm。
立派なサイズである。 Just a perfect day! Thanks a lot! 鮭川!
次の瞬間、川原の木々の香りとシノンのアロマが私の嗅覚を優しく犯していった。


最高の一日。生きていて良かった。しかし、ヒットポイントを全てナビゲートしてくれた西村氏の川を見る目は流石としか言いようがない。
運も味方してくれた。クイック・トゥイッチングもまだ試行錯誤の連続だ。もっと色んなバリエーションと攻略法が無限に広がっている事は間違いない。唯、この日3本のサクラマスが私のミノーに反応した事は事実である。いつもの失敗の連続から一転、こんな素晴らしい日もある。続けてきて良かった。


その後、秋田ではロッドを振ることなく東北の地を後にした。東北の友人に別れを告げ、この旅も終わりとなる。
帰路、高速のパーキングエリアで休息中に友人から1本の電話が入る。
「ヒデちゃんごめん。借りた71ベイトとCDレックスで釣っちゃったよ、61cmのサクラマス!」
うれしそうな、でも少しだけ申し訳なさそうな優しい友の声が聞こえる。
「何を言ってるの! やったじゃない。仲間が釣ったらうれしいに決まってるじゃない。」
「いやー、クイック・トゥイッチングは釣れるよ! 朝の10時だからもう日の出からひっきりなしに人が通って、見ている間に誰も釣れてないし……。まさかと思ったけど、ヒデちゃんの71ベイトでロッドワーク真似してやったら一発で出たよ!」
そうまで言われると、うれしいやら、ちょっと悔しいやら……。釣師は単純だなと自嘲気味に自分を振り返ってみた。


2006年も本流のシーズンが幕を開ける。今年はどんな出会いが待っているのだろうか。
サクラマスの優しい目、木々の香り、小鳥たちのさえずり、緊張と静寂。どんな風にミノーを動かそうかなんて考えていると、また夜寝られなくなってしまう。こんな夜は優しいミュスカ(南仏の天然甘口ワイン)なんか口に含んでリラックスして床に付こうか。


いつまで経っても遠足の前の日の子供のように寝られないんだろうな。
Good Night.


田中 秀人





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