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SAURUS > エッセイ > 田中秀人 > イトウ愛とカムイの大河 (2)
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Tokyo Rod & Gun Club
田中 秀人
ESSAY: Top Notch


第1話 | 第2話 | 第3話
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~ 突然嵐のごとく…



苦節15年…運命とは突然に、そしてあっけなく訪れるものである。
あの日、僕がでくわしたデイドリームもそうだった。2013年10月、今年もやってきた北の大河。昨年のイトウ詣は空振りで1本のイトウにもお目にかかることなく終了。そんなことは何度も経験しているので当たり前に思っている。

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あれから世俗に紛れて過ごしたこの1年。いろいろな思いを抱えて今年も北海道入りした。お決まりの、いつもの試練の雨。それは激しく強く降り続いた。夜更けとともに嵐はますます勢をまして、この小僧を車ともども引き剥がそうとする。
帰れ帰れ…お前なんか諦めて去るんだ…この軟弱ものめが…ここから出てゆけ…
嵐が絶叫している。豪雨と暴風…プチキャンパーはグラグラ。一瞬外に出ただけでずぶ濡れになる横殴りの雨と雷鳴がこの夜の睡眠を奪った。寝不足の早朝は降り止まぬ豪雨と落雷に怯え、車の中で貝のように閉じている。
釣友から連絡が入る。濁流と大増水で、今日この大河で釣りができるところはもうない。その後移動して、川を2本探りながらイトウを狙うがかすりもせず。万策尽き、巡り巡ってあの大河の支流まで再び戻ってきた。かなりの濁りと1m以上の増水。可能性があるすれば、大場所の溜まりくらいか。
思い当たるポイントは2ヶ所ほど…釣友のヴァーレ 諏訪と桐山も思案にくれている。一つ目はハズレ、最後のポイントでチャンスが訪れた。この状況で、もうこの一瞬しかない。
大場所の流れ込みで一発…70cm強のイトウが喰ってきた。大増水に運ばれひしめく流木。この嵐に苦戦したが、愛すべき若いイトウがチライネットに吸い込まれた。
昨年はかすりもせずボウズ。そんな苦い思いもあり、実はこの一本でかなり満足していた。
あの衝撃への序章とはつい知らず…。



すっかり雨が上がった夕方、本命の大本流に戻ってみたが大増水と濁流で壊滅状態。全く釣りにならないと諦めかけていた。巡り巡ってたどり着いた、ある支流が奇跡的にもいち早く濁りが取れ始めていた。
「かすかなチャンス有りか?…」
本流の濁流と澄んだ支流の堺を狙う。まさか…。諦めかけていた流れからイトウの気配を感じた。当然、翌朝も気配があったあの合流点に立つ。
昨日からの猛烈な鮭のアタック。イトウを釣るには避けて通れない。鮭で場荒れしたのか、イトウのバイトは無い。鮭か?怪しいと思ったら合わせる。怪しいと思ったら合わせる。
何度も繰り返していると、突然あの巨大な塊が襲った。
水面を大きな櫂でかき回すように渦を巻き、NEWシートプス13.5を下から突き上げた。
明らかに違うアタック。グングングンと鈍重に首を振る、たまらないあの波動。間違いなく大本命が喰ってきた。しかも、今までになくデカイやつが喰ってきたことは瞬間で判断できた。
「これホンマもんかもしれない…。網…、お願いできますか?」
すぐに仲間にサインを送り、ファイトに入る。ドラッグ3.5kg、なす術もなくズルズルとラインが引き出される。
支流と本流の堺から突っ込まれないように支流側15mほど上流に上がるが、ここまで大きくなるやつは賢い。やっぱりそうなのか、あいつの予定通りなのか、本流の濁流に水面を掻き回しながらズルズルと突っ込んでいく。このぶっとい流れに突っ込まれるのはまずい…、本当にまずい…。
「そっちに行かれると困るんだよな…。ズズッッッズズッッ…。あっっ…、行っちゃった…。」
流れに乗って荒れ狂う本流に吸い込まれていった。支流との堺、ブッシュに触れないように20mだけ下がってひたすらテンションをかけて耐える。ここで追いかけて一緒に下がってしまったら100%やられる。
ズズ…、ズズッッー…、さらに50mは引き出されただろうか。とにかく耐える。とにかくロッドを絞る…。じっと耐えていたらこちらの岸際によってきた。
ここでも追いかけて近づくとまた一気に走ってやられる。いわゆる「だまし」と言われる間際での突っ込みにやられた経験は数しれず。短時間で寄せた場合、足元で大暴れすることがあるのだ。しばらく耐える。じっと耐えて耐えて。あえて強引に寄せずただひたすら耐える。耐えた末に寄せて一気に浮かせる。仲間が下に入って一発でネットイン。フックアウトしなかったのは奇跡だ。3本のフックが伸びる寸前だった。
すべて瞬時の判断の積み重ね。一つでも間違えばやられていた。

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「でかいですよ、ヒデさん!メーター有るよ、これ…」
「や…やったぞ!!」友の声が木霊する。
「90位ありますかね??」と控えめに声をかけて近づいてゆくが、ファイトの重量からそんなもんじゃないと確信していた。ランディング場所に近づき、浮ついて足がもつれて滑って転んだ。
産まれたての仔馬状態。手が震えた、いや全身が震えた。震える手で水に浸けたまま巨大なイトウを計測すると仲間が声を掛けてくれた。
「それじゃ魚がS字に曲がっているじゃない。フラットなところで計測したらどう。」
できれば上げたくないが、ちょっとだけ測らせてくれよ、すまない…。
激しく暴れるイトウ…完全にフラットな場所は近くにはない。
脇の草の上に上げたが、まだ魚体が曲がった状態。素早く計測すると尾又で100cm強。これで十分だ…
「ヒデさんまだ魚体が曲がってるよ…。しっかり測れば1m2~3cmはあるよ…。もう一度測ったらどう?」
声をかけられたが、それより一刻も早く水に返したい。元気にリリースしたい願いの方が正確なサイズ測定より遥かに大きかった。完全無欠、誰がどんなに意地悪に測ってもメーターオーバー。メーターを超えていれば、僕にとってそれがプラス2cmだろうが4cmだろうが、大きな違いはない。それで十分なのだ。



メーターオーバーの10Kgオーバー。 推定11~12Kg。
銀鱗がうっすらと赤に染まったオスの巨大イトウ。



はっきり言えることは、
1mを超えるが110cmは無い。10kg超えだが20Kgには遥か及ばないということ。そいつはもう一つ雲の上の大きな壁で、別世界であることはイトウ釣り師の暗黙の了解なのだ。


2013年 10月 憧れに…夢に…カムイに出会った…。
流れのイトウは強い、秋のイトウはコンディション最高でさらに強い。そしてメーターを超えるイトウは桁違いに重厚で強い。僕にとって全てが完璧でこれ以上考えられないパーフェクトな巨大イトウなのだ。


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ZYリンクス ベイトキャスター クイックトゥイッチン 71H。自ら設計したロッドで夢を掴んだこともメモリアルに花を添えた。改良に改良を重ね、チューニングしたカッ飛びのアンバサダー。NEWシートプス13.5cmのカラーラインアップになかったが、欲しくて自分で塗ったユキシロブラック。ナイロン20lbメインにリーダー40lbフロロ、ラインシステムもドラッグテンションもすべてのタックルバランスが機能して夢にたどり着いた。一つでも欠けていたら泣きを見ただろう。
あのメモリアルな出来事は、狙って獲ったというにはおこがましい。交通事故か宝くじ当選か?それを遥かに超越する、ラッキーと偶然の出来事だと思う。
ただし、その時が突然やって来た貴方にその備えがあるのか?
備えあれば憂いなし。偶然だけど偶然じゃない。瞬きのような一生に一度のチャンスを得るのか逃すのか。
「備えよ、常に…」
積み上げてきた経験とトライ&エラーの集大成がこの一瞬に終結した。


田中 秀人






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