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SAURUS > エッセイ > 山田周治 > 琵琶湖でバスがまたよく釣れている、という事実で考えること
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Tokyo Rod & Gun Club
山田 周治
ESSAY: Shuji Yamada


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この春の、まだ早いころ。年若の釣り仲間から(といっても40代なのだけれどね)、写真付きのメールが届いた。「琵琶湖で60cmオーバーを釣った!」というんですね。

もちろん、「おめでとう、すごいじゃないか!」と返信はしたのだけれど、この歳になってもバス釣りの根性は消えていないんだなあ。あのメールを見たときのねたましさとうらやましさは、まだ心の片隅に残っています。


ま、それはさておき。

聞くところによると、近頃琵琶湖では60cmオーバーがそれほど珍しくもなくて、ガイドが秘密のポイントに連れて行ってくれて、そこならば、ほぼ間違いなく獲ることができるんだとか。
いや、大物ばかりではなくて、数も釣れるようになった。琵琶湖ではまたバスが増えているんじゃないだろうか、という話も聞く。


漁協の人達や行政は、「あれだけ、一生懸命、金をかけてバス駆除をやってきたのにどういうことなんだ」と、嘆いているに違いないのだけれど、この現象は生態系のもたらす摂理のひとつなのかもしれないのだね。

バスに限らず、生態サイクルの頂点に立っているフィッシュイーターは、その生息圏内のキャパシティ限界に達すると、必然的にそれ以上は増えなくなるのだという。
限界というのは、池とか湖とかの大きさ、つまりそこにいる小魚や甲殻類が、バスの生存を支え続けられるだけの量かどうかということだ。そのバランスを越えてしまえば、多分バスは自分達の稚魚を捕ることになるのだろう。それは自分の生命を保つと同時に、種族の数を減らしてバランスを回復させるという行為といっていいかもしれない。

この数年ずいぶん間引かれたおかげで、生き残ったバスが種族を増やす許容量は大きくなった。だから活発に産卵し、孵った稚魚は効率よく成長したのだろう。


許容量というのは、いうまでもないけれど、ポンドの大きさと同時に、ベイトになる生き物たちの量のことでもあるわけだ。



このシリーズの第13話でご紹介したことがあったけれど、琵琶湖は1992年以来夏場に水位が30cmも下げられてきた。そのためにコイ科の卵はほとんど乾燥して死滅するという悲劇が繰り返されて、フナもモツゴもモロコも激減してしまったのだ。バスが食べ尽くしたのではなく、ほんとうの原因はここにあったのだね。

その事実をようやく認めた国交省が、一部ではあるけれど、3年前からコイ科の魚達の繁殖が守れるよう、産卵期、葭原に遡上できるよう水路を開いたり、夏場の水位をあまり下げないようになった。その効果が顕われて、小魚が増えた。つまり許容量が恢復した。ということではないのだろうか。


もちろん、生き物達が元気を取り戻した、もう一つの大きな理由に、生活排水や農業排水の水質改善があるという。そうだろうね。

農薬や化学肥料がいっぱい溶け込んだ水が、田圃から湖に流れ込んでいたのだし、浄化し切れていない生活排水が、人口の増えた周り従の都市から流し出されていたのだもの。それが改善されれば、湖の生き物はそれだけでも、ずいぶん元気になれる。


とはいえ、小さな生き物たちにとっては、湖岸改修とやらで浅場の葭原を消滅させたダメージは大きいだろうから、かつてのような豊かな生態系は無理だろうけれど、とにかく恢復の道筋は開けたのだ。

この道を進めれば、湖は自分の力で新しい自然の姿を作り上げて、生き物達自身が自分達の生態バランスを保つようになるだろう。それを見守りつつ、その自然のバランスに寄り添って、人間は湖を活用するのがいいのではないのかしら、ね。


山田 周治





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