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SAURUS > エッセイ > 田中秀人 > 宮川 プラッギング・レポート (2)
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Tokyo Rod & Gun Club
田中 秀人
ESSAY: Top Notch


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ESSAY TITLE



2007年、サクラ前線の便りが日本の南から届きはじめた頃、飛騨の河川の水温も少しずつ上昇してきた。いつもの年ならばここでドドッと雪代が入り、宮川の本流プラッギンが小休止となる。
予想はしていたが、今シーズンの異常なまでの暖冬と降雪量が観測史上最低を記録した影響がもろに出始めた。季節はずれの清らかな流れが目の前に広がっている。木々に緑は無くグレーな世界が広がり、いつもの年ならラッセルして残雪を進むはずの川原に雪はゼロ、雪代が入るはずのこの時期にそぐわないクリアーな流れが本流を支配している。僕にとっては全く奇妙な景色に感じてしまう。



雪代はほとんど出ていない。水温も8℃をさしている。いつもの年と比べてこの時期としては2℃ほど水温が高めに推移している。
この早い春の行進を止めるすべは無い。無力な人間のほうがこの状況に合わせ、作戦を組み立てることにした。
過去にも暖冬で(といっても今年ほどじゃないけど)水温が高めに推移した年、ビッグレインボーが早春に顔を出してくれた経験がある。
それも大場所でなく意外に早い時期から大岩が転がる流れの中に入ってくるのである。


ここで作戦の選択が生じるのである。
ターゲットは一発、大岩魚狙いか早春のビッグレインボー狙いか?
狙うターゲットによってミノーのサイズセレクトからアクションまで変わってくる。
初期の岩魚は大きなミノーが大好きで比較的大きなアクションを好んでアタックしてくる。
レインボーは小ぶりなプラグが大好きで、プリプリ、キビキビ動く細かいアクションが効果的だ。
アユが放流されるとマッチ・ザ・ベイトでアユに合わせてサイズを選ぶのだが、初期の境界線はミノーサイズ7cmを目安にしている。
ファットかスリムかミノーのシェイプでも変わってくるが、大岩魚をメインに狙うならば8.5cmのCDレックスから上のサイズを選択する。
レインボー狙いで厄介なのは、魚はでかい、ミノーは小さい、したがってフックサイズも小さい。結果的にバラシやフックが伸びたりと課題も多いのだ。
まだまだ試行錯誤が続いている。


今日は小型のプラグを選んで瀬から淵、トロ場から岩盤までまんべんなく探ってワイルドなレインボーの着き場を探ってみよう。
スパシン6cmとCDレックス7cmをメインに、パターンにはまれば大本命に出会えるかもしれない。
ここで注意しなければいけないことがある。この時期小型のミノーをセレクトし細かくアクションを付けていくと、解禁当初の成魚放流物の残りが飽きない程度に釣れてくるのである。
狙いは本流のワイルド・ビッグトラウトなのだ。
調子に乗って成魚放流物を釣って喜んでそのパターンに終始すると肝心の大本命に出会うことはできない。この日も予想通り、成魚放流物がそこそこ顔を出してくる。特に、淵やトロ場は成魚放流物の反応ばかりだ。


ここでポイントを絞って、やや流れがあって水通しの良いポイントのみを選んでテンポ良く探っていくことにする。
せっかく成魚放流物が釣れているのに、淵やトロを飛ばして釣り下るスタイルを他の釣り人が見たら首をかしげるに違いない。
狙いはワイルドなのだ。大本命のやる気のあるやつは流れの中にいる、間違いない。


しばらく釣り下っていくと、A級ポイントのトロ瀬が視界に入ってきた。
「あのトロ瀬の開きがくさいな。」同行の友に一声かけて瀬頭からスパシン6cmをプレゼンしていく。
瀬の流れになじませながら、要所で上下のヨーヨーアクションを加えスパシン特有のバタフライアクション(蝶が舞うようにプルップルッと上下に動かす)を演出していく。
瀬頭から数メートル下ったガンガンの瀬でいきなり黒い影がスッと走ったかと思うとギラッッと波打つ瀬の中でフラッシュが光った。

 ドスン! ギラッッ! ドッバーン!

狙いの開きよりももっと上のガンガンで出た。いきなりガンガン瀬でスパシンをひったくった直後に本流のターボ・チャージャーが全開でスパークした。ビーン!糸鳴りがする。
ボウをして1発目のジャンプをかわし、直後に一発アワセを決める。ゴックッッ!手のひらにフッキングが完璧に決まった手ごたえが伝わる。
ベイトリールだけが感じることの出来るこの感触は最高の快感なのだ。ゴン、ゴゴン!首を振る感触も手のひらにダイレクトに伝わってくる。



ビッグ・レインボー!思わず大声で叫ぶ。友が駆け寄ってきた。「よし、出たぞ!」
跳ぶわ、跳ぶわ。3連発でジャンプを繰り返し、川の魚とは思えない猛烈なスピードでドラッグを引きずり出して行く。
ドラッグを2kgに設定しているのにこのパワーだ。岩盤と巨岩が連なる瀬の中だ。思い切ってロッドを絞る。
ミノーは小型でフックは#8だ。過去にこうしたケースで何度もフックアウトしたり針を伸ばされたりルアーが破壊されたりしている。
大胆にかつ繊細にファイトを楽しみ、ようやく流心から浮き上がってきた。
さらに2回走ってようやくネットに収まった。
ZYベイトキャスター71クイックトゥイッチンの粘りとパワーを借りて春の大本命、本流のビッグ・レインボー50cmアップが手に収まったのだ。

 「よっしゃー、完璧な魚体だ。すごくキレイな魚だよ。」

駆け寄った友が声をかけてくれた。
新緑の緑にも似た、美しいグリーンバックのパーフェクトな魚体だ。
春だというのにすごくパワフルなレインボーだった。同じ50cmだったら明らかにスピードもパワーもサクラマスより上だ。
それほど本流のワイルド・レインボーは強く美しく、胸が締め付けられるほど愛おしい。



進歩の無いからだの大きな少年は一生この魚を追い求めていくのだろう。
ワイルド・レインボーは生涯のライバルだ。
運よく獲ることが出来たり、やられたり、これからもせめぎあいが続く思うとわくわくして夜も眠れない。
ましてや70オーバーにはやられっぱなしだ。


まじまじとレインボーを眺める僕を横目に、友がつぶやいた。 「それにしても、そうとうな瀬だよ。よくあそこで出たね。」
春のやわらかい日差しのせいか、ファイトの興奮からか額に汗が光っている。それに反して腰から下はウエーディングで冷え切っている。
レインボーから目を離し、友に声をかける。

 「恵比寿の貝柱天ぷらそばでも喰いに行くか。」

冷えた体に汁物の天ぷら蕎麦はしみじみとしみいる。釣りのあとにはどうしても食べたくなる。
恵比寿の貝柱天ぷら蕎麦は店のメニューにのっていない裏メニューなのだが(普通に天ぷらそばを頼むと、えびの天ぷらそばが出てくるのでご注意を)高山の地元の人間は「恵比寿といったら、貝柱の天ぷらそばで決まりでしょう。」という地元の人ぞ知る隠れ名物メニューなのだ。


極上の干し貝柱を水で戻し、その戻し汁でころもを仕込み、貝柱のかき揚げにする。
かつおがしっかり効いた濃い目の汁にしっかりした手打ち蕎麦が絡み、貝柱の天ぷらに茹でたほうれん草、大根おろし、たっぷりのネギが彩られる。
汁になじんでやわらかくなった貝柱のかき揚げと蕎麦のハーモニーが香ばしさとこくの真味を奏でる。
興奮した冷えた体に、熱い貝柱の天ぷらそばがしみ込んでゆく。 「あー、幸せ。飛騨に産まれて本当によかった。」
宮川レインボーと恵比寿の貝柱天ぷら蕎麦は、僕にとって至上の喜びだ。こうして春の完璧な1日を堪能した僕は、最後に宮川に向かって深く一礼をするのであった。

 「ありがとう、宮川。これからもよろしくお願いします。」


田中 秀人






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