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SAURUS > エッセイ > 田中秀人 > 宮川 プラッギング・レポート (5)
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Tokyo Rod & Gun Club
田中 秀人
ESSAY: Top Notch


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ESSAY TITLE




正確なキャスト、暖流帯に入る+抜ける、それを手のひらで感じる感度、そして50cmを超えるターゲットをスナッギーなガンガン瀬で狙うとなると、ベイトタックルのパワーのアドバンテージが必要となってくる。
ターゲットにプレッシャーをかけないためにウエーディングを極力避けて柔らかくミノーを激しい流れの中で躍らせてゆく。

「ギラッッ!ガッツゥ!ギュンギュンギュン!」

40cm級のワイルドレインボーがスパシンを激しく押さえ込んだ。
「跳べ!」答えるようにレインボーが宙を舞う「ドッパーン!ドッパーン!」
連発で全身をあらわにした。ゴロゴロと転がる石をかわし、スリリングにランディングだ。
完全無欠のレインボー。美しすぎて触れる指先が震える。
「よしいいぞ。まだデカイ奴が出るはずだ。反応は良い。」


今日は尺上のレインボーも連発している。たて続けに、ビッグレインボーがミノーを襲う。
「ギラギラッッ!フワッッ・・・ドカッッ!ビーン!」
「で、でかいぞ!」思わず息を呑む。
50cmを超えるとチェイスもあたりも変わってくる。
モワッと藻が揺れるように水中が光り、箒で掃くようにフワッと当りがでる。


すかさず合わせを入れてやるとドスンと重くなり、いきなりターボーチャージャーがかかって、ジャンプと疾走を繰り返す。
強烈にジャンプを繰り返し、点在する石を縫うように走り回る。
ロッドワークで障害物をかわし耐えるが、2キロのドラッグがずるずると出てゆく。


汗がしたたる。暑さのためか、ファイトのためなのか、手のひらまでが汗ばんできた。
「ギューン、ギュギューン」最後の一絞りをしのいで、完全無欠の本流ビッグレインボー50cmアップが手に収まった。
すべてのプロセスを何一つ省略することなく、ファイナルの一瞬にたどりつく事ができた。
思わず自分の体で日陰を作ってレインボーに直射日光が当たらないようにする。
美しさに見とれて声も出ない。
今年は宮川の某所でレインボーのスポーニングも確認した。
「これで、宮川にもパラダイスが戻ってくるぞ。」
河川改修や温暖化の影響、豪雨など心配は尽きないが、こんなに素晴らしいトラウトに会うとこの瞬間は全てが楽観的に思えてしまう。
巨岩にむした苔を滴り落ちる沢清水を口にする。熱した体内がスーッと落ち着行いてゆく。心臓の鼓動がこめかみまで伝わってくる。
しばらく木陰で休憩を取った後、すぐ下流の瀬に陣取るアユ師に声をかける。


「こんにちは、どうですか?」
アユ師は釣果も答えず僕を見るなり
「ルアー?こんなに暑いのに釣れるの?」
と逆に聞き返された。
「暑いですからね。釣りのじゃまはしませんから続けてくださいよ。」
僕も会話になっていない返事を返すと、さらに切り返す。
「最近どこか瀬の中で、でかいやつにおとりを盗られたりしてませんか?」
すると、きらりとアユ師の目が光った。

「おお、そういえば先週、・・・の瀬ででかいやつにオトリを盗られた。でかい岩魚かニジマスじゃないか?きっと・・・。あんなやつが居るとアユがいなくなる。アンちゃん釣ってくれよ。」

アユ師の希望通りおとりアユの盗人を退治する気はないが、余計なことをアユ師に言う必要は無い。貴重な情報を元に完全無欠のビッグトラウトに出会いたいだけだ。 出会いのあとは、次世代のビッグトラウトに出会うためにマザー・リバーに返してあげる。
今日は最高の情報を手にして思わずにやけてしまった。


真夏でも本流を歩いてみよう。
その条件は、瀬があって、ニジマスが住んでいて、アユのメッカの本流であること。ここまで条件がそろえば、後は確信の瀬を探すだけだ。
全国各地、皆さんの近くにもこうした川が必ずあるはずだ。
そしてアユ師に声をかけてみよう。
アユ師は、ポイント争いさえしなければ、害も無くライバルでもないルアーマンには意外にもあっさりと最高の情報を教えてくれる。
最高の宮川レインボーを手にしたすぐ後なのだが、最新の情報に早くも心躍らされ、暑さも疲れも忘れてその瀬をもう目指している。
「ザッッ!ザッッ!ザッッ!」リズム良く川原に行進の足音が響く。


おいこら、さっきまで「もうだめ、暑くて動けない・・・。」そう言ってたのは、どこの誰だ。




真夏の抜けるような青空。


そしてその空のように単純な性格の大きな少年には、ビッグトラウトが最高の清涼剤のようだ。
もうすでに宙に舞う次なる巨大なワイルドレインボーの映像が脳裏に浮かび、軽やかに滑るように次の瀬を目指している。


一心不乱に進む大きな少年、その目の前を夏のアンバサダー、大きなオニヤンマが猛烈な勢いで飛び去っていった。
「あっ!」
一瞬、何もかも空っぽになって青空をしばらく眺めていた。
しみじみと記憶に深く刻み込まれた、酷暑の一日であった。
来年はもっと素晴らしい年になることを祈って。


田中 秀人






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