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SAURUS > エッセイ > 田中秀人 > 宮川 プラッギング・レポート (3)
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Tokyo Rod & Gun Club
田中 秀人
ESSAY: Top Notch


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毎年五月の連休を境に、飛騨の川岸は藤の花の青紫色いっぱいに彩られ、新緑との対比が目にもまぶしい。そして本流プラッギングにとって最高の季節を迎えるのだ。
穏やかなそよ風につつまれ、柔らかい日差し、飛び交う小鳥たちのさえずりに胸が締め付けられる。
ウグイスの谷渡り(あのホーホケキョの鳴き声のこと)。日頃の雑踏をすべて消し去る、1年中で一番気分の良い季節である。

今年も藤の花に先導されるように本流の水温が12℃まで上がってきた。

水温12℃。これは宮川本流にとって、ひとつのキーワードになる。





漁協のアユ担当者には表現がダイレクトで申し訳ないけど、宮川ビッグトラウトにとって最高のベイトフィッシュ「稚アユ」の放流が始まるのである。
稚アユの放流の目安は、水温が朝晩10℃以下にならなくなったらとの漁協基準が有る。日中は水温12℃を指す。ビッグトラウトの最高適水温でもある。


近年はアユの冷水病の影響で、少しずつ放流の時期が遅くなり段階的に6月初旬まで数回に分けて稚アユの放流を行うようになった。しかし、6月にはいって13cm以上の稚アユ(若アユ?)を放流するのもどうかと思う。
あまりにも、遅くまで集団で飼われているため、川に放ってもいつまでも群れて仲良しグループを結成している。本性を失ったアユたちは、アユの友釣り師にも当然悪評なのだ。

6月に放流される若アユは別にして、5月中の稚アユはサイズにして7cm~11cm。まさにビッグトラウトの大好物サイズなのである。


いよいよ、稚アユが本流に解き放たれる。すると同時に川の中が大騒ぎになる。
どこに隠れていたのか、巨大な大岩魚が淵の中で暴れまくって、稚アユを暴食するのだ。
放流されたばかりのアユは通称「アユ団子」と言う塊になって敵から身を守ろうとする。そのアユ団子の群れの中に、本流の大岩魚が魚雷のように突っ込んでいくのである。

現在は1ヶ月近くに分散して稚アユを放流するため、以前のように集中して大岩魚の突進を見ることは少なくなったが、それでも大チャンスには間違いない。
ただし、この突進は特に大岩魚に多く見られる行動なのである。もちろん、巨大なニジマスも稚アユを狙うのだが、少しアプローチが違う。ニジマスは放流のショックで弱って流れてくる稚アユを落ち込みで待ち伏せているか、アユ団子からはぐれたベイトを激しくバイトしている。

このときの大岩魚は人が見ていようが全く関係なく、無防備に稚アユにアタックし続ける。全くこの悪食はすさまじいものが有る。
この状況になれば、かなりの確立でその大岩魚をヒットさせることが出来る。淵の中なので慌てさえしなければ、ランディングの確立も悪くない。

今年も、そうしたチャンスがやってきた。





作戦はこうだ。
この日ばかりは漁協トラックのストーカーになる。
 1. 先ず数日前から漁協の稚アユ放流の予定をチェック!
 2. 当日、午前中に稚アユをたっぷりと乗せた漁協トラックを探せ!
 3. とにかく、放流場所まであとをつける。出来れば本日の放流場所まで聞き出そう!


放流直後が最大のチャンスになる。
ミノーは当然、稚アユサイズの6cmから9cm。投げ心地、感度、パワー全ての面で有利なベイトタックルを手にする。
メインは来シーズン発売予定のベイトロッド、ボロンTS60MC。

とにかく投げまくって、トゥイッチでパニックアクションを演出すれば効果的だ。
岩魚の目は、サバンナで獲物を追う猛獣のようにかっ飛んでいる。荒れ狂う岩魚をサイトフィッシングでかけるのは最高にエキサイティングだ。鈍重なイメージの岩魚だが、あれほど捕食のスピードがあるのかと見直してしまう。
さらにベイトタックル使用で、バイトの衝撃や首を振るファイトが視覚と同時に手のひらにゴツゴツと伝わり満足度が倍増する。だからベイトなんだ。

今年もスパシン6cmやCDレックスが大活躍。激しくダートするシンキングミノーをガッツリと大岩魚が襲った。
スパシン6cmで40cmオーバーを一本、CDレックス8.5cmチャートカラーで42cmを1本ゲットした。尺上の良型も数釣ることが出来た。
とくに、放流直後の稚アユの動きを見ると、ショックでケイレンしているやつや、上下左右に激しくプルプル逃げ惑うやつが集中して捕食されている。
そうなればもう、目に浮かぶのはその動きをスパシンやCDレックスの上下の動きとパニックアクションをイメージして演出してやれば効かないわけが無い。


大岩魚を手にした私に仲間が近寄ってきた。

 「またCDレックスで釣ったの!えさ並みに釣れるね!」

友人の表現が良いのかは別にして、本当にこのプラグ無しには私の釣りは語れない。



こうして、今年の5月はタイミングをみて本流に足を運んだ。
以前は、岩魚50cmオーバー、レインボー60cmオーバーを毎年の目標として自分に課していたが、現在は不思議とガツガツしなくなってきた。今は美しいトラウトに触れるだけで胸が高鳴ってしまう。“この感動を伝えたい。同じ喜びを、多くの人に味わってもらいたい”と思うようになった。



この10年の間に3回も水害に襲われてきた本流に、パーフェクトなトラウトたちが戻ってきてくれたそのたくましさに感動し、満足している。私にとって、なによりの吉報なのだ。
仲間の釣果や、地元の情報では今年も50cmオーバーの巨大な岩魚や60cmオーバーのレインボーがこの時期にみごとゲットされている。
自分自身は、スーパービッグのヒットは得られなかったけれども、40cm級の岩魚や50cm級のレインボーに至福の時間をもらった。主役は麗しき魚たちだ、本当に有難う。

瀬の中ではティーレックスが大活躍。良型レインボーや尺ヤマメが乱舞した。
本当にアユを追うトラウトたちはアグレッシブでパワフルである。



今年は、非常に雨が少なく雪代の量も少なく、6月に入ってからの状況は渇水と高水温(なんと6月でもう水温19℃だよ!)で最悪となり、更なるビッグワンには出会えなかった。
しかし、30cm~50cmのワイルドトラウトたちが数多く見られたことに感動し、そして安堵している。

 「よくぞここまで戻ってくれた。頑張って大きくなってくれよ。」

宮川の完全復活は近いと希望がわいてきて、来年の川を想うだけでソワソワして身の置き場がなくなってきた。
そして、今年よりも来年は素晴らしい年になるだろうと願いを込めて、全てのトラウトを川に返してあげた。






今日も目いっぱい宮川に遊んでもらった。汗ばむ額を谷水で冷やした手ぬぐいで拭う。
苔のむした柔らかい岩のソファーに身をゆだね、腰まで水につかって川の中に座り込む。背中のデイパックから、特製のおにぎりを取り出した。
このひと時に母なる偉大な川と大自然が1匹の河童(ガオロ)を優しく受け入れてくれる。(注:飛騨の方言で河童「カッパ」をガオロと呼ぶ。河童はもちろん河童なんだけれども、飛騨では、釣りバカや酒に強い人の事もガオロ「河童」と呼ぶ。)

アルミホイルでつつまれた、おにぎり。
開いた瞬間、新緑と海苔と岩にむした苔の香りがなんの抵抗も無く交じり合う。野生的にガブリと一気に喰らいつく。
腹が減ったガオロは、アユ団子の大岩魚より獰猛かもしれない。
喰らいついたその中には、一塩にしたサクラマスを焼きマスにしてたっぷりとおにぎりの芯に詰め込んである。
ジューシーなマスと飛騨の自然がはぐくんだ、優しいコシヒカリ。「こんなに旨い、おにぎりは無い。」と手前味噌につぶやく。



優しい木漏れ日の狭間から、「ホーホケキョケキョケキョ・・・。」春の友人ウグイスたちがあちらこちらから鳴き競っている。
中には「ホーホケケッッ」とか「ホホーケキョキョケキョケ」などと、歌の下手な若いウグイスもいて、思わずほほえましく笑いがこみ上げてくる。

 「ちゃんとパートナー見つけろよ。」

ウグイスの事なんだけど何故か心配になってくる。



谷川から流れる水に沈めておいた、麦茶のボトルを手にする。こんな最高の昼食には麦茶がお気に入りだ。
たくさん発汗してどろどろになった血をさらさらにする効果は麦茶が一番良いと科学的に証明されているようだ。そんなことを当たり前のように「夏は麦茶」と伝え受け継いでいる
日本人の伝統と知恵にもしみじみと感歎してしまう。

「あー、間違いなく僕は日本人だ。」しみじみと川につかって居心地がよくなってしまった。
あれ、河童(ガオロ)は日本の伝統的な妖怪(妖精?)だったよね。
まあ、妖怪でも人間でもどっちでもいいか。


どっちにしろ、山奥に住む田舎ものには間違いないからね。


田中 秀人






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