SAURUS LOGO
SAURUS Official website
SAURUS YahooStore    SAURUS Webshop
SAURUS > エッセイ > 田中秀人 > 宮川 プラッギング・レポート (6)
ESSAY Title Logo
Tokyo Rod & Gun Club
田中 秀人
ESSAY: Top Notch


第1話 | 第2話 | 第3話 | 第4話 | 第5話 | 第6話
ESSAY TITLE



猛烈な夏が、高速の彗星のごとく通りすぎ、稲穂がしっかりと頭をもたげ始めた頃のこと。
河川敷の草むらでは、キリギリスからコウロギへ鳴き声が徐々にバトンタッチされ、夏から秋に模様替えを足早に急ぐこの季節は、穀倉地帯の生産者にとって天気予報との、にらめっこが続く。




9月第1週。本州を台風が直撃しそうだ。エックス・デイは9月6日。
ニュースキャスターは競うように声高く、速報を伝える。早稲の田んぼは早くも稲刈りに入る。



「やったー!台風が来るぞ。」
喜んでいるのは、脳天気な釣り師と暴風警報が出て明日学校が休みにならないかと期待している、うちの子供たちだ。母親の厳しい眼光が部屋の奥で光っている。

飛騨の渓流は今年から、宮川水系の遊漁期間が9月10日までと足並みがそろった。
釣り師にしてみると、あまりにも早い禁漁期間への突入と感じるが渓魚の保全には良いのかもしれない。
個人的には、9月10日過ぎのアマゴの遡上、9月末のイワナの動きが射程外になり寂しくも感じるが、ルールはルールだ。これも良しとしよう。

「大型の台風は勢力を保ったまま北東に進み・・・・」
まだニュースキャスターの声が響く。
耳だけをニュースに向けて、せっせと小型ミノーのセッティングを急いでいる。
ここのところまとまった雨は降っておらず、平水が続き、まだ本格遡上には時期的に程遠い。禁漁へのカウントダウンが始まっている中で、この台風が間違いなくキーワードとなるだろう。もうすでに、心はゴルジェの渓谷に在る。


ここで、良く耳にする釣り師の言葉が頭をよぎる。

(秋の荒食い)(雨後の暴釣)(笹にごりのマズメ時)(増水した後の水の引き際)(一雨ごとの遡上)どれもが秋の良いつりをするためのキーワードだろう。 だけど、今僕の脳裏に浮かんでいるのはもう一つのキーワード。
「大荒れの天気の前に、数日餌にありつけないことを察知した渓魚は荒食いする。」
天気は曇り、又は晴れのときもある。嵐の前の静けさ。そんな平凡な渓流で突然嵐のごとく渓魚たちにスイッチが入るのだ。

明日から大雨、明日から台風が接近と言うときに、暴釣した経験は皆さんにもないだろうか?
魚だけでなく、山火事の前に動物たちが逃げ出したり、天変地異の前に奇妙な鳥の群れが激しく騒ぎ立てている。そんな風景を何度となく見てきた僕にとって、渓魚が暴れる川を事前に察知しているという事実は不思議でも何物でもない。
そして、過去にこうした状況で平水のジンクリアーのタフな秋の渓流で暴釣したことが何度もあるのだ。



そして今、大型の台風が迫っている。

「台風がもっとも飛騨地方に接近するのは午後3時ころ、正午ごろから激しく雨が・・・。」感情を殺したキャスターの声が響く。

入川地点を選ぼう。
「本流は刺し網に投網。魚はおびえてしまい、大荒れ前の荒食いには気が回らないようだ。では宮川支流。それも本流差しもあり得る区間を選ぼう。遡上には早いが、気の早い40cmアップの本流ざしもあるかもな。」
どうしても大物への色気は捨てきれないが、あくまでも狙いは居つき渓魚の荒喰いだ。


狙いは尺上。イワナをメインにヤマメにアマゴ。どれもいけるだろう。

ついに発売が決定した、ベイトキャスター50、60、70の3本。
しかし、5フィートの50であってもメインユースはスパシン
40cm~50cmをマックスに設定した渓のビッグトラウト用のシャフトだ。
30cmトラウトをブラウニーの5cm~ティーレックスの7cmの間で狙うとなると少しオーバーパワーかもしれない。

今年からキャンプ場のエリアフィッシングのインストラクターを担当することになり、エリアでのトップウォータープラッギンをベイトで楽しみ始めた。
そしてもっとライトなベイトキャスターが必要と感じ、5フィートのウルトラライト・ベイトロッドを自作してテストしている。

渓流での夏の虫パターンやアップストリームのボサ際攻めの手返しの良さのためにもベイトキャスターのキャストフィールがどうしても欲しくなってきた。
それに、ベイトタックルがメインになってくると何が何でも、軽量ルアーをベイトで投げたくなる。もう意地になって没頭している。



実は白状するが、初夏に森下から連絡が入った、とあるニュースも僕の心に火をつけた。
「このあいだ、岩井と渓流行ったら、あいつ2500Cでブラウニー5cmを15メートル位ふつうに投げてましたよ。」
「ま、まじか・・・!」
こうなると、ベイトキャスター魂に火がつかないわけがない。


夏の虫パターンから、源流まで、インストラクター時のエリアでの講習時間以外はほとんどあらゆる場所でベイトタックルを手にすることになる。
ロッドの設定、リールのチューニング、360度からミノーを打ち抜くキャストの精度。
一つずつ楽しみながら積み上げて、開けた場所でのブラウニー5cm、制約のある場所でも7cmのティーレックスであればストレスを感じなくなってきた。
そうなると、キャストフィール、コントロール、感度、手に伝わるダイレクトなファイト。
バックラッシュを克服すれば、強烈に楽しさが増してゆく。


9月6日。
「予想通り台風が飛騨地方に接近しています。・・・」
AMラジオがポップトーン(軽音楽)の後に天気を伝える。


重い雲が垂れ下がる中、早朝車を走らせる。
ベイトキャスター50UL、小型ミノー用ヒデ・スペシャル。
ティーレックス7cmをセット。

それから4時間、狂ったように渓魚たちはミノーを争うように追い、競うようにミノーを襲っていった。



尺上のイワナを含む良型が、次々に姿を見せてくれる。
アップストリームのボサ際にミノーが吸い込まれる。
「キラッッ、キラッッ」ブラウニーのフラッシングにも秋色に染まった色の濃い
トラウトたちがじゃれついてくる。

ポイントを1つずつ丁寧に釣り上がりながら、ボサの両際、流心、流心脇、ストラクチャー、石裏を丁寧に攻めてゆく。
愛すべき友人たちとの、今年最後の出会いかもしれない。
早春から移り行く季節を超え、折れそうな僕を1年間支えてくれた。
言葉が出ない。


完璧なまでにパターンがはまり、イワナ、ヤマメ、アマゴと思いぞんぶん数釣りとサイズアップも堪能し、納得してふと空を見上げた。
「ポツ、ポツ」雨が落ち始めた。


予報通り午前中に雨が降り始めた。
猛烈な勢いで雲が流れている。風も強まってきた。
木々の葉は強風で飛ばされ、木の実がバラバラと音を立てて、急流に飲み込まれてゆく。
あっという間に猛烈な雨が降り始め、見る見る増水してきた。
鉄砲水の危険は重々承知だ。

泡が流れてくる、ごみが流れ始める・・・。
「そろそろやばいな。」

あわてて豪雨のなか、車に帰り川を覗くと、猛烈に両岸を巻き込む鉄砲水が
慌ててステージの幕を引くかのように、ハイスピードで駆け抜けていった。



山の恵み、栃の実や山栗の殻が流れて来る。
夏の終わり、秋の始まり、そして今年の宮川水系とのしばしのお別れを濁流の中しっかりと見届けて、川を後にした。
ぬれネズミとなっても心と体は蒸気につつまれている。

ずぶぬれのウェア、突風にあおられる車。
ワイパーが役に立たぬほどの豪雨の中、にやけた面構えで苔むした薄暗い渓谷の水流と
ブラウニーのフラッシングがリズミカルに響き続けていた。

芳醇な渓の香りと、早瀬の冷たい感触を思い、ついついポップトーンを口ずさむ。
1年間有難うございました。
厳しい冬をお互い必ず乗り越えて、又来春会えることを楽しみにしてるよ。
じゃ、またね!
感謝、感謝。

いつまでも、ふるさとの川がたくましく繋がって行くことを願いながら、雷鳴轟く豪雨と闇雲にまみれ、どこまでも真っ直ぐな国道のかなたに、1台のワゴンが吸い込まれるように遠ざかっていった。


田中 秀人





SAURUS
Copyright © SaurusTrain Co.,Ltd.